裁判員制度で扱う事件は殺人が最も多く、選ばれた市民はその詳細を知ることになる。50代のときに地元で起こった凶悪な殺人事件を担当した塾講師の女性は「通常より公判が長期にわたり、遺体の写真なども見た。血なまぐさい現実を知って疲れたが、裁判員は良い経験だった」という――。
※本稿は『裁判員17人の声 ある日突然「人を裁け」と言われたら?』(旬報社)の一部を再編集したものです。
「解剖写真を見ても大丈夫ですか」と聞かれ、辞退した人も多かった
裁判員経験者:Nさん
塾講師。裁判員をつとめた当時は50歳代。塾では小中学生には5科目、高校生には英語を教えている。
――はじめにあなたが担当された事件についてお聞かせください。
【N】裁判は2018年に担当しました。被告人が殺人、逮捕監禁致死などで起訴されていた事件でした。
――呼出状が届き、裁判員に選ばれるまでの段階でも、印象的な出来事がいくつかあったとお聞きしました。
【N】地裁の裁判所から届いた「裁判員選任手続き期日のお知らせ」の中の資料のひとつにカレンダーがあり、裁判所に出向く必要のある日には色がついていました。同封の「裁判員制度のナビゲーション」には、裁判は平均で5日前後と記載されていましたから、カレンダーは色づけされた日程のなかでいつ招集されてもいいように、という予定を示すものだと思い込んでいました。
もちろん書類の一部には、今回は長期間にわたる裁判である旨が記されていたのですが、書類が多かったもので読み飛ばしていたようです。選任の日に周りの人たちと話したとき、同じように思っていた方も何人かいたので、誤解していた人も多かったかもしれません。実際に裁判官が「カレンダー通りに出席しなければならない」と話したときには少しどよめきがありました。
――かなり長期に及ぶ裁判だったんですね。罪名も殺人罪と、非常に重たいものですが……。
【N】「解剖写真を見ても大丈夫ですか」という裁判官の言葉に驚いた人も多く、この理由で辞退した方も多かったように思います。