ただ、量刑をこの場で決めなければならない、との言葉には、裁判員側から驚きの声と大きなため息が聞こえました。量刑は裁判官たちで決めるもの、と思っていた人が何人かいたようです。評議について、私たちはわかっているようでもはじめてのこと。始める前に最終ゴールについてあらためて説明があればよかったと思います。
――審理が始まる前に普通は裁判官から、「裁判員はこれから有罪か無罪かの判断と、有罪の場合には量刑判断もする」ということについて説明があると思うのですが……。
【N】あったのかもしれませんが、事件の審理と証人尋問が沢山始まったので、メモをとったり審理の理解で手一杯でした。
ですが審理していくうちに、とても重大な犯罪事実なので、刑を決めるとしたら重罰になる、と予想がついてきたため、自分たちが任されると知って衝撃を受けました。
評議の結果を受けて裁判官が判決文を作成しましたが、裁判長が全文を読み上げるのにも時間がかかりました。
裁判員6人のうち3人が知人、1人は同級生だった
――裁判員裁判の長期化は問題視されていますが、あなたのように長いあいだ拘束された例もめずらしいと思います。その点からみて感じたことなどはおありですか。
【N】長い裁判になると通常では考えられないこともたくさんあると思います。まず裁判所から遠い地域に住んでいる人は、長期間通うことが困難です。そのため裁判員は近隣に住んでいる人から選任されました。つまり非常に狭い地域から選ばれたということで、私の場合は6人のうち、3人が私と何らかのつながりのある人たち、加えてもうひとりは中学・高校の同級生でした。被害者側の家族の弁護士も私の知り合いで、驚きの連続でした。この点の負担については配慮を望んでいます。
裁判は暴力団も絡んでいるということで、傍聴席の前にはアクリル板がありました。どんな立場の方かはわかりませんが、ほぼ毎回法廷に来られる方が何人もいます。アクリル板を通してでもお互いに顔はわかってしまいます。あるとき、その日の公判を終えたあとに家族と待ち合わせした喫茶店で、いつも傍聴席で顔を見かけていた方が前の席に座りました。思わず目をそらし、その方は私に黙礼して店を出られましたが、期間が長いと知らない人に顔を覚えられる怖さもある、ということを実感した出来事です。