被告人は地元の有名人、初日から法廷で証言を聞くことに
――審理のようすを教えてください。
【N】実は裁判が始まってから被告人がかなりの有名人であり、私の周囲でも多くの人が彼を個人的に知っていると知り、驚きました。
また、裁判員に選ばれたら、裁判が始まる前にもっと詳しい内容、心構えや審理の流れについてなど説明されるものだと思っていたのですが、いきなり初日から法廷に出席し、証人の話を聞くことになるとは思いもよりませんでした。最初は自分がなにをすればよいのかわからなかったのですが、裁判官が証言などを筆記されているのを見て、私もひたすら書くことに徹しました。裁判官からは、気になる証言があればまたビデオで見られますよ、と言われたのですが、証人が多すぎて、自分で整理する必要があると判断して続けました。おかげで指が腱鞘炎になりました。腱鞘炎は未だに治っていません。
――ていねいにメモをとられていたんですね。長い審理のあいだで、他に印象に残ったことはありましたか。
【N】検察側の陳述書はとても見やすく、証人の顔写真や事件の関与への記載、また事件の流れが詳しく描いてありました。弁護側は書面がなくすべて口頭と液晶画面上での陳述、弁護人は書面を見ずに語り口調で発言されていたので、まるで外国のドラマの裁判のようでした。どちらも裁判員に配慮してとても歯切れよく、わかりやすい言葉を選んで話されているのが印象的でした。また解剖写真にも配慮されていたようで、思ったより生なましくなく、拍子抜けするほどでした。
凶悪犯罪であり、通常の期間では終わらない長期公判に
――評議はいかがでしたか。
【N】まず事件を時系列に並べていくことから始まりました。いくつもの事件が同時進行しており、登場人物も多く、丁寧に整理・確認する作業が必要だったためです。
そうして事件ごとに全員が意見を出し、評議を進めていきました。公判が長かった分、事件についてそれぞれの立場で考える時間は十分にあり、また裁判長がどの意見も否定せず、疑問があれば全員でそれについて考える、という姿勢をとっていらしたこともよかったと思います。