1980年代ハリウッドの特殊造形師と現代ロンドンのCGクリエイター。映画の特殊効果に魅せられた二人の女性を通して創作者の情熱と苦悩をリアルかつ力強く描いた、深緑野分さんによる直木賞候補作『スタッフロール』。

 その文庫化を記念して、2024年に『ゴジラ-1.0』で第96回アカデミー賞〈視覚効果賞〉受賞という偉業を成し遂げた白組の山崎貴監督へ深緑さんがインタビューを敢行! ディープなVFX談義から、山崎監督流マネジメント術、『ゴジラ-1.0』の製作秘話まで、ここでしか読めない話を前後編でお送りします。(前編はこちら

ゴジラに襲われた電車内で何が起きているか

山崎貴監督(左)と深緑野分さん

深緑:それではゴジラの話も伺えますか。今回、初代『ゴジラ』を見直して思ったのは、当時の俳優さんやエキストラの方々が戦争を経験しているから逃げ方の緊迫感が違う。終戦から10年もたっていない時に撮られているので、叫び方とかも本当に生々しいんですよね。ゴジラも怖いけど、俳優たちも怖いと思いました。アナウンサーの「さよなら皆さん、さようなら」の場面もそう。

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山崎:すごい汗かいて、ものすごい形相でやりますからね。「お父ちゃまのところに行きましょうね」もすげえ怖いんですけど、冷静になってみると、子供たちは5歳とか4歳じゃないですか。どう考えても「戦争で死んだお父さんのところに私たちも行くのよ」というニュアンスのシーンなのに、昭和29年だと計算が合わないんです(笑)。

深緑:あはははは。でも多分、リアルタイムで見た人たちの想像力を喚起させたんでしょうね。「こういう親子がいたな」と。そういえば、『ゴジラ-1.0』の銀座でゴジラに襲われる列車のカメラアングル、あれは初代と完全にかぶらせていますよね?

山崎:気づいてくれましたね。運転手役も顔が似ている人を起用しました。

深緑:よく見つけてきたなと思いました。表情がほぼ一緒ですよね。

山崎:あそこは車内で何が起きていたかを見せたかったんですよ。あの中にいたら、さぞ怖かったろうなと思って。

深緑:初代では映らないですからね。

山崎:あの場面も予算の壁にぶち当たって大変で、「電車、諦めてもらえませんかね」って言われました。だから「予算は分かったけど、どうやって実現できるか考えようよ」って押し戻して。「ここはデジタルで足すから」と言いながら、どんどんとセットが小さくなっていって……、本当は電車をまるまる1両作ろうと思っていたんですけど、斜めに傾けることのできるセットってすごくお金がかかるので断念しました。

 日常が崩壊する瞬間って、見慣れた風景が変な角度になっていくんですよ。屋上が傾くのもそうだし、電車が傾いてくるのもそう。絶対安心と思っていた巨大な日常が傾くのが、僕はすごく好きなんです。