今年は戦後八十年ということで、『雪風 YUKIKAZE』という映画が公開されるという。「雪風」とは、太平洋戦争中に活躍した駆逐艦の名称だ。米軍によって完膚なきまでに叩きのめされた連合艦隊にあって、駆逐艦としてはただ一隻だけ生き残った。
そんな雪風は、過去にも映画化されている。それが今回取り上げる『駆逐艦雪風』だ。
日本の戦争映画というと、悲惨な戦況や死にゆく兵たちの姿をドラマチックに盛り上げる悲劇的な作りが多い。本作も、さまざまな激闘をくぐり抜けてきた雪風を描くのだから、さぞや重苦しい内容が繰り広げられるに違いない――と想像したくなるところだ。
が、実際には拍子抜けをするほど、そうした描写はない。
本作の主人公は工員として雪風の建造にたずさわった木田(長門勇)。彼は「私は今まで雪風より好きになったものはありません」「形は小さくても美しいです。可愛いです」と真剣に言い切る、異様といえるほど強い愛情を雪風に注ぎ込んでいる。ただ、海軍に志願し配属された先が炊事を担当する烹炊(ほうすい)であるため、ほとんどの場面が厨房で展開されることに。しかも、その描写は平和的で、戦闘中であってもどこか緊張感に欠けている。
さらに、長門勇がいつも捨て犬のような物欲しげな上目使いで、可愛げのある困り顔をしていることも、作品全体の緩い雰囲気を助長していた。戦死のシーンも人伝だったり俳優の顔のアップだけだったり、と直接的に描写されることもない。日本の戦争映画の魅力といえる悲壮感や壮絶さは、全くといっていいほど出てこないのだ。
ただ、だからといって全く見応えのない映画かというと、そんなことはない。
それは、本作の冒頭で大々的に「協力 防衛庁」とクレジットされていることからも明確なのだが、防衛庁の全面協力で撮影されていることが大きい。本作は、多くの場面で大道具・小道具・ロケ地などを防衛庁が気前よく提供している。そのため、特撮に頼ってきた大半の戦争映画ではなかなか見られない「ホンモノ」使用ならではのディテールの凄みが、背景に映し出されているのである。
たとえば序盤、雪風の進水式は石川島播磨重工のドックで撮られており、スペクタクルな映像を提示してくる。そして何より素晴らしいのは、航行シーンだ。実際に自衛艦を海上で運航させながら甲板で撮影されているため、俳優たちが芝居をしている背景に実物の波が映り込んでいるのだ。その荒々しい迫力が、演出の緩さをカバーしていた。
ミリタリー好きの人には楽しめる作品ではなかろうか。
