記憶の断片を旅する映画
1927年、活動写真に魅せられ、青森から上京してきた本田兄弟は、吉祥寺初の映画館である“イノカン”こと「井の頭会館」で働き始める。兄のハジメ(峯田和伸)は活弁士として、弟のサネオ(染谷将太)は雑用係として。やがてサネオは社長を託され、会館の手伝いをしていたハマ(夏帆)と結婚、劇場を盛り立てるべく奮闘するが、時代は活弁士を必要としないトーキー映画が主流となっていく。さらに戦争の足音も迫る中、ハマは持ち前の芯の強さで家族を支える。自分たちの居場所を守るために――。
甫木元監督は本作を「老人の回想録」だという。嘘か本当かわからない、いい加減な記憶の記録であると。その言葉のとおり、史実に基づく話でありながら、どこか曖昧で変拍子的な昭和史が、心象風景のように美しく揺らぎながら綴られていく。
「僕自身は、これは人の記憶の断片を旅する映画だと捉えています。つまり僕が演じるサネオは、常に息子であるタクオの記憶に準じている。だから時に整合性がなく繋がらない部分もあるんですが、その断片断片を大切に、彼の記憶の投影として演じました」
また、とりわけ印象深かったセリフとしては、冒頭に出てくる「活動(写真)があしただ!」を挙げる。
「僕は映画って過去だと思っていたんです。だって過去しか映せませんから。でも逆転の発想ですよね。彼らは映画を見て明日、未来を感じるという。聞いて、とてもしっくりきました。実際には時代とともに、たくさんのものが失われていく物語です。ただ、先には必ず未来がある。それを希望的に描いている作品でもあるんです。過去から現代に至るまでの長い記憶の旅の果てに、未来への希望を感じ取ってもらえたら嬉しいですね」