──1930年代後半から物語を始めた理由は?

クラス 30年代後半は、今と非常に似た時代だからです。

 政治的な大変動が起ころうとしている時代から映画をスタートさせることで、ヨーロッパとアメリカにおけるファシズムの台頭という、いま世界に起きはじめていることをイメージさせ、歴史の中で起きている類似性を目の当たりにさせたいという思いがありました。

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──変わりゆく時代の空気は、映画のなかでは色や明暗でも見事に表現されていましたね。

クラス 私は撮影監督としての長いキャリアがありますが、いつもストーリーと映像は密接な関係になければいけないと思って作品を作っています。つまり、映像はストーリーを表しているビジュアルでなければいけないということです。

 だから映画では、30年代後半の南仏時代は本当にカラフルで、すごくハッピーな映像で表現しています。誰ももうすぐ戦争が始まるということを知らずに人生を楽しんでいる。それを時代のトーンとして色と明度で表現しました。

 戦争の時代になっていくと、だんだんと色が抜けて、モノクロに近くなっていきます。ダッハウ強制収容所のシーンは、もうほとんどモノクロになっていて真冬そのものです。登場人物の中からも、生命力みたいなものが、だんだん吸い取られていくようなビジュアルに仕上げました。

ダッハウ強制収容所の解放シーン

──小物や衣装などの細部にもかなりこだわっていますよね。

クラス ええ、もちろん。この映画のあらゆるデザインは、ビジュアルからサウンド、美術セットに至るまですべて慎重に考えて作っています。

 たとえばリーが晩年、若いジャーナリストからインタビューを受けるシーンがあります。あれは70年代という設定なので、セットからデザイン、登場人物の着ている衣装、照明に至るまで70年代を表現するため、ほかのシーンとはすべてやり方を変えました。

──なぜそこまで細部にこだわる必要があったのですか?

クラス リアリティを出すためです。先ほども話した通り、私たちはこの映画を、リーの人生をただなぞるような映画にはしたくなかったんです。彼女と一緒にいて、彼女の鼓動が聞こえ、彼女が経験していることを肩越しに見守るような映画を作りたかった。そのためには、徹底した「リアリティ」が重要でした。

 だから本作では、衣装デザイナーのマイケル・オコナーも、美術デザイナーのジェマ・ジャクソンも、すべてのスタッフがスクリーンに何をどう映し出すかを徹底してリサーチしていました。

 リー・ミラーがどこにいて、どうやって撮影に行ったのか、正確にはわからない部分もあったけれど、それでも私たちは真実を求める手を休めませんでした。

リーは、『LIFE』誌のカメラマン、デイヴィッド・E・シャーマン(アンディ・サムバーグ)とチームを組み数々の仕事をした