ママの中に何人かの人格がいる
なんか、よくわからない料理を時々します。すごく、料理をしたい人がママの中にいるっぽいです。この前も、納豆と生魚と豆腐とゼリーとほうれん草と小松菜を、土鍋で焼いて煮たものを自分で作って食べているんですよ。部屋中、変な臭いが立ち込めていて、むせるぐらい。
調理法が間違っているのではなく、組み合わせが無茶苦茶で、何というか、ジャイアンの料理。ママは普段、右利きで料理しているのに、この料理が好きな人格の時は、左利きになるんです。
「美味しいから、食べな」
こう言われても、そんな気持ち悪いものは食べられません。
「今、お腹いっぱいだから」
拒否すると、今度は悲しむ人が出てくるんです。
「やっぱり、ママの作った料理なんか、要らないんだね。外食の方がいいでしょう? 外食に行ってきなよ。お金、出してやるから」
どうした、どうした。そんなこと、私、ちっとも思っていないのに。
翌日、キッチンに来て、「何、これ? 変な臭い」って、ママが言うんです。昨日、食べきれなかったので、ラップに包んで冷蔵庫に入れておいたのですが、それを見て、「何、これ?」って、覚えていないんです。その料理はママもさすがに食べられなくて、捨てるしかないんです。だって、ものすごい臭いですから。
多分、ママの中に何人かの人格がいます。一瞬で、切り替わるんです。私には、顔が変わるとかまではわかりません。私は、顔までは見えないですから。でも、人格が変わっていると思います。私は足音で、人を判断することが多いんです。この人の足音はこれだって、覚えているんですが、ママは確実に足音が変わります。低くなるんです。普段はトントントンなのに、ドンドンドンって、すごく変わります。
ただ、自我はあるというか、蒼くんが一緒に家にいる時は変わらないし、変わるのは家族の前だけです。今、「自我」と言いましたが、どこか、判断できる部分は残っていると思うんです。ですから、ママの別人格を知っているのは、パパと海くんだけです。それに本人もどこか、おかしいとは思っています。パン粉ケースを叩きつけた時も、後で「ごめん、ママ、少しおかしかった」って言いに来ましたから。
「変わる」っていうのも、何か理由があるなら、まだ理解できるんです。私が何か、ママの気に障るようなことをして、怒り出すならわかるんですよ。理由があって、「今まで、育ててきたのに!」って激昂するなら、まだいいんです。それは、私がスイッチを押しているから。