ひりひりする顔には切り傷が
1時間が経つ頃には、もう自分で動ける人は残っていないのだろう、時々板やはずした座席に乗せられて運び出される人は頭まで毛布をかけられていて、生きているのかどうかは、わからなかった。1両目のすぐ側に、救急車が待機していて、毛布をかけた人を収容する。
砂塵がすっかりおさまった後は、青空がやけに高く広がっていた。陽射しがきつくなり、座っていた仁美の顔の右半分の肌がヒリヒリするほどだった。
「これで顔、冷やしぃ。顔の傷、痛いやろ」
声をかけられたので、見上げると、白い作業服のおじさんが、氷水の入ったビニール袋を差し出している。「ありがとう」と言って受け取った。顔がひりひりするので、ビニール袋をあてたが、この時は顔に数カ所、切り傷があることに気づかなかった。周囲の状況があまりに凄惨だったからだろう。気づいたのは、帰宅して鏡を見てからだった。
「ねえちゃん、病院に行かんのか」
白い作業服のおじさんたちに、何度も勧められたが、裕子の安否を考えると、それどころではなかったから、その都度、「大丈夫です」と言って断った。
毛布から投げ出された裕子の右手
新聞記者が近寄って来て、「お話を伺ってもいいですか」と声をかけてきた。煩わしかったが、断る気にもなれず、1両目に乗っていて起きたことを話しているうちに、1両目から新たに1人が座席に乗せられて運び出されてきた。毛布が胸元までかけられている。真上を見ているようだ。毛布から投げ出された右手に、白いサポーターが着けてある。裕子が湿疹の皮膚を保護するために巻いているサポーターだ。
「裕子さん!」
大声で叫んで、仁美は走り寄ろうとした。しかし、裕子との間には、大勢の負傷者や救護者がいて近づけない。裕子を救出した一隊は、何台もの救急車が出入りしている道路のほうへ向かうように見えたので、仁美は先回りをしていようと、黒い靴下のまま走った、途中で見回すと、一隊がどこへ行ったのかわからなくなっていた。
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