――原作の主人公は男性でしたが、映画版で女性に変えたのはなぜでしょう?
ベルトラン・ボネロ 物語のテーマとして主人公が男性でも女性でもかまわないと感じたのが理由のひとつ。それと私は今回、自分が今までやってこなかったことを試してみたいと思ったんです。『メゾン ある娼館の記憶』では複数の女性たちを主人公にしましたが、ひとりの女性を主人公にした映画を、私はまだ作ったことがなかった。男性主人公の話は『SAINT LAURENT サンローラン』ですでにやっていますから、今回はひとりの女性を主人公にした映画を作ってみようと思ったわけです。
――レア・セドゥの存在感が強烈でしたので、彼女の起用が決まってから、主人公のガブリエルの造形が出来上がったのかなと思ったのですが。
ベルトラン・ボネロ 女性の主人公にしようと決めたのとほぼ同時にレア・セドゥの起用が決まったので、特に彼女の存在によって脚本の内容が変わったということはありません。ただしオープニングの場面に関しては、彼女だからこそ生まれたものだといえますね。レア・セドゥ本人が登場し、演出の指示を受けながらグリーンバックの前で演じてみせる。ここは映画の物語からは少し逸脱し、彼女の存在こそが私の映画のテーマであると、意識的に主張した場面です。
3つの時代のガブリエルはやはり一人の女性である
――まさにオープニングから意表をつかれ驚かされることばかりの映画でした。原作からの翻案として、1910年、2014年、2044年という3つの時代を舞台にした理由を教えていただけますか。
ベルトラン・ボネロ 最初の時代は第一次世界大戦前、当時はいろんなものが発明された刺激的な時代で、世界は20世紀に入ったばかりで光り輝いていました。そして2014年は、エリオット・ロジャーというシリアルキラーの存在が世界中の人々の脳裏に強く刻み込まれた年といえます。劇中で2014年のルイがiPhoneで自分を撮影している姿が描かれますが、このモデルになったのがエリオット・ロジャーです(注:エリオット・ロジャーはインセルを自称する女性蔑視主義者で、犯罪を予告する動画をYouTubeに投稿した後、カリフォルニア大学サンタバーバラ校近くで大勢を殺傷し自殺した)。
ひとつ重要なのは、2014年は#MeToo運動が起こる前の時代だったということ。#MeTooの前と後とでは、私たちの女性に対する見方は本当に大きく変わった。エリオット・ロジャーのような人物を生み出したのはまさに運動が起こる前の時代でした。それから2044年は、私にとっては遠い未来ではありません。明日にでもすぐそうなりそうな近未来として設定しました。




