――先ほど監督は、今回はひとりの女性主人公を描きたかったとおっしゃっていましたが、つまり3つの時代に登場する3人のガブリエルはたったひとりの存在として捉えていいのでしょうか? 同じガブリエルという名前でありながらも3人それぞれに違う存在とも捉えられそうですが……。

ベルトラン・ボネロ ガブリエルという人物をどう見せていくかについてはずいぶん頭を悩ませました。それぞれのガブリエルは独立した人物に見えますが、実は2044年のガブリエルは、1910年と2014年のガブリエルの集大成でもある。つまり時を経るごとにガブリエルという存在が少しずつ集積され、最後にひとつの存在に到達するのです。だからここに登場する3つの時代のガブリエルはやはり一人の女性であると私は考えています。

©Carole Bethuel

レア・セドゥの声は驚くほど美しい

――俳優たちについてもお聞かせください。レア・セドゥという俳優は、フランス映画にかぎらず、いろんな国のさまざまな作家の映画に出演しています。監督は過去作でも彼女を起用されていますが、俳優としての彼女をどのように感じていらっしゃいますか?

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ベルトラン・ボネロ 前回『SAINT LAURENT サンローラン』で彼女と一緒に仕事をしたのは2014年の頃でした。その後彼女はますます多くの経験を積み、俳優として大きな力を得たはずです。特に感じたのは、未知のものに飛び込むのを恐れない態度ですね。新しいものはなんでも試してみようとする力を以前よりさらに強く感じました。

――監督は特に彼女の声に惹かれ、起用を決めたそうですね。

ベルトラン・ボネロ 私にとって声は配役を決めるうえで非常に重要なもので、声が気に入らない俳優を起用することは絶対にありません。レア・セドゥの声は、フランス語を話しているときも、英語を話しているときも驚くほど美しいんです。とても穏やかな優しさを保ちながら、同時に、抑揚を欠いた声を出せる。そうかと思えば、すべての発音がしっかり耳に届くよう、とても滑舌のいい話し方もできる。彼女に当て書きをするようにしてダイアローグを書くとき、彼女がそれを読むことを想像するのが、私にはとてつもない快感でした。

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――声といえば、今回、映画監督のグザヴィエ・ドランが声だけの出演をされていますが、これも彼の声に惹かれての起用だったのでしょうか?

ベルトラン・ボネロ 彼はこの映画の共同プロデューサーでもあったので、何らかの形でその存在が作品に残るといいなと考えるうち、ああいう形での出演になりました。私はあまり感情をこめずにしゃべってくれと頼んだんですが、彼は「それは僕には無理な注文だ」と言っていましたね(笑)。