百貨店や全国の商店街の衰退、メーカーの減少などで取扱高は全盛期の5分の1にまで縮小したものの、商人ならではの「御用聞き文化」を現代に受け継ぐ。流通の川上と川下の間に立ち、鮮度の高い情報を仲介して製品や販売戦略に反映させる。伝統的な卸問屋の機能が幅広い商品網で温存される、国内流通業界「最後の砦」ともいえる存在だ。
1970年代にはすでに台湾にも会員小売店を持ち、高品質の日本製=「海渡」というブランドイメージを発信してきた。その蓄積が現在でも「日本製」を前面に打ち出す寺一の商品を引き立て、現地で一定の客を引きつけている。
多品種小ロットを提供する小規模企業の国産品がこうして「個性」を発揮できるのも、ユニクロなどグローバルな市場を相手に質の高い製品を手頃な価格で提供する「ボリュームゾーン」があってこそだと、新一朗さんはみている。
エトワール経由で買われる寺一の商品の約3割が、エトワールと共同開発したオリジナルの商品だという。実際、エトワールには、近年、購買力を高める台湾や韓国などアジアの小売店から、一般的な商業施設では買えないオリジナルの商品を増やしてほしいという要望が多く寄せられるようになった。
「日本製」を絶対に消滅させたくない
「大手にはできない色やデザイン、その隙間でいかにいいものをつくっていけるか、商品開発力が問われているのだと思っています。人を増やして会社を大きくしたいわけではない。売り上げベースで目標をはかるわけでもない。自分たちの器で、商売を成り立たせていけるようにしたい」と話す。
一方で、両者が共通して直面しているのが、「いくらモノを作りたくても、原料の大元がなくなる」という強い危機感だ。取材で新一朗さんは何度もその切迫感を伝えてきた。
「僕らが減っていくのと同時に、染工場さんも減って、当然糸屋さんも減っていくわけです。原材料の仕入れ先、川上にいる人たちと一緒にこれから歩んでいかないと、もう絶対継続は無理なんですよ。彼らと一緒になって、新しい糸や染め、デザインを考えていく。共に未来を見て共存の道を生み出していくことが、うちがやるべきことだと思っています」