「こんな感じの色、作ってほしいんだけど」と寺井さんが頼みに行くと、「えー、またですか?」と営業担当の比嘉卓馬専務。渋々を装いつつも笑いながら、工場メンバー総出で手間のかかる工程を一つずつ丁寧に踏みながら果敢にトライしてくれる。思いもよらない絶妙な色合いが生まれた時、“仲間たち”の感激は倍増する。
こうして生み出されたオリジナルカラーの糸は少なくとも、70色に上る。この糸を使った最初のマフラー製品が冒頭に紹介したカシミアタッチの「差込ネックウォーマー」だ。
「日本一の問屋」エトワール海渡との出会い
そして、製造の次に立ちはだかる「販路開拓」の壁を前に、新一朗さんが真っ先に頼ったのが、「エトワール海渡」だった。父親がセーターの製造を始めて以降、取引がなくなっていたが、35年ぶりに再び連絡をとり、協力を求めた。
「日本で一番の問屋さんですからね。エトワールさんに出せば、他の問屋からも問い合わせがくる。あそこに出している商品、ないですかって」
「日本一」と言い切れるゆえんが、確かにある。
「季節の商品を持って説明にいくと、必ずバイヤーが、品質やデザインについてアドバイスをくれる。僕がこんなの作ってみたいんですけど、とサンプルを見せると、デザインを修正するやりとりが何度かあって、『試験的にやってみましょうか』となるんです。できる範囲のミニマムな量なんだけど、それにかかるコストも踏まえ価格も一緒に考えてくれる。僕からしたらもう、このやりとりだけで楽しい。こんなにものづくりに付き合ってくれる問屋さん、おそらく今はもう他にないと思います」
寺一が1年を通してエトワールに持ち込む商品案の型数は、40点を超えるという。
海外でも評価される「日本製」の価値
エトワール海渡は、全国各地に点在する約2500のアパレル関連・雑貨・食品メーカーと、国内外1万5000の小売店をつなぎ、現在6万アイテムを扱う。明治35年(1902年)創業、日本最大の総合卸問屋だ。一般の消費者からはあまり見えない、裏方の中間事業者にあたる。