「ニットのダイヤモンド」に匹敵する糸を

工場が自ら商品を企画、デザインして製造販売する。文字で書けば一行だが、地方の小さな会社にとっては、既存の業界構造の枠を一つずつ打ち破っていかなければならない、「決断」の連続だった。

やるからには、使い心地のいいものを作りたい。

「ニットの世界でダイヤモンドといえばカシミア製ですが、高価でなかなか手が届かない。糸を工夫して、できるだけ近い製品を作れないかと考えました」

ADVERTISEMENT

従来なら糸メーカーの見本帳の中から素材となる糸をオーダーするところから始まる。だが、いざ手をつけようとすると、ほしい糸の最低ロットが大きすぎる。1色あたり50kg、10色そろえるだけで500kgを抱えなければならない状態だった。

「糸の原料の段階から自社でつくれる分だけ、使う分だけを、オリジナルで作るしかない」

目指すは「カシミアタッチ」の風合い。ヒントとなる糸がいくつかあった。方策を探っていると、偶然にも、ある紡績開発の経験者が飛び込み営業で会社を訪ねてきた。糸の開発を相談すると、「できる」という。ほしかった種類の糸に精通していただけでなく、生成(きなり)の状態で仕入れることができ、重たいロットの縛りもない。一気に道が開けた。「僕はラッキーなんです」と笑うが、目的に向かって行動し続けたことが、人との縁を引き寄せたにちがいない。

大同染工との協業がもたらした色の魔法

デザインの要となる色の開発にもこだわった。既成の糸にはない、複雑な色合いがどうしてもほしい。寺一の工場から車で5分ほどのところに、糸の染色を専業にする創業67年の染工場「大同染工」がある。いかにもニットの産地らしい距離感だが、産地の海外流出、空洞化に伴って、染工場も急激な勢いで減少するアパレル関連の重要産業の一つだ。糸を染色する「かせ染」の工場では「四国において大同を含め2社、全国でも20社程度にまで減っている」という。

大同染工の協力を初めから織り込まなければ、寺井さんは自社製品の発想にすら、至らなかったかもしれない。