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米軍の病院船『マーシー』来航 災害時に「海からのアプローチ」は必要か?

災害大国・日本における病院船保有議論について考えてみた

2018/06/22
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 最近の動向で顕著なのは、専用の病院船ではなく、軍艦に病院船機能を付加させる多目的化だ。専用の病院船は平時には持て余し気味であり、維持費も馬鹿にならない。そのため、一部の大国を除いては、比較的大型の艦艇に病院船機能を持たせようとする傾向が強い。

 例えば、英国の航空支援艦『アーガス』、フランスの『ミストラル』級強襲揚陸艦、ドイツの『ベルリン』級補給艦、イタリアの空母『カヴール』、オランダの統合支援艦『カレル・ドールマン』等が高い医療施設を備えるか、医療モジュールの搭載での拡充を想定している。

オランダの統合支援艦カレル・ドールマン(kees torn撮影)

1990年代には日本でも病院船保有の議論が高まった

 日本における病院船はどうだろうか。日本は第1次大戦では平時に貨客船、有事に病院船として使用できる船舶を日本赤十字社が保有していた他、第2次大戦中は民間船を徴用した病院船が多数使用されていたが、戦後は専用の病院船を保有していない。

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 しかし、1990年の湾岸危機以降、日本でも病院船の保有議論が高まった。1991年には関係省庁からなる多目的船舶調査検討委員会が設置され、1992年のPKO協力法案で社会党が政府案の対案として、病院船や輸送機を有する国際協力隊創設を提示するなど、政治の場でも登場するようになる。

 1995年の阪神淡路大震災で更に病院船保有の議論が高まり、1997年には「多目的船舶基本構想調査委員会」が設置され、災害時に活用する多目的船舶の検討が行われる。しかし、阪神淡路大震災以降に整備された海上自衛隊の『おおすみ』型輸送艦、海上保安庁の『いず』型巡視船といった、医療機能を併せ持つ新型船舶で十分と2001年に結論付けられている。

手術室など病院機能を備えたおおすみ型輸送艦『くにさき』(海自サイトより)

 その後も、『ましゅう』型補給艦、『ひゅうが』型護衛艦といった高度な医療機能を備えた大型艦艇が整備され、諸外国と同じような多目的化の流れに乗っている。

 しかし、2011年の東日本大震災で、再び病院船保有が取り沙汰されるようになった。震災翌月には超党派の「病院船建造推進、超党派議員連盟」が発足し、翌2012年に病院船建造推進に関する要請書を官房長官に提出している。そして、前述した「海洋国日本の災害医療の未来を考える議員連盟」による『マーシー』来日の働きかけに繋がっている。