海外での災害救助や人道作戦の任務が多い
米海軍の病院船である以上、第一の任務は米軍人に対する医療の提供で、1991年の湾岸戦争の際もマーシーは出動している。
しかし、実際の任務は海外での災害救助や人道作戦が多く、2004年のインド洋大津波での出動や、国際共同演習に参加することが多い。同型の『コンフォート』は2001年の米同時多発テロの際、ワールド・トレード・センター周辺で消火活動を行った消防士の休息、メンタルケアの拠点としても使われた。今回も米海軍が環太平洋地域各国の政府・軍・NGOと連携し、医療や文化交流を通じて災害対応訓練などを行うパシフィック・パートナーシップの帰りに来航したものだ。
また、手術支援ロボットの『ダ・ヴィンチ』が搭載されていたことを報じるメディアもあったが、ダ・ヴィンチは普段から載せているわけではなく、サンディエゴに帰港次第、返却するという。これは、『マーシー』がプルーフ・オブ・コンセプト(概念実証)の実験船としても使われているためで、海洋環境で手術支援ロボットが使えるかという実証に従事しており、スリランカでは現地の医師立ち会いの下で胆石の除去手術を行い、ベトナムでは3人の産婦人科手術を成功させたことで、海洋環境で使用できることを実証したという。
世界第2の病院船は中国海軍の『和平方舟』
『マーシー』の例からも分かるように、近年の病院船は戦地での活動よりも、災害対応や人道活動に使われることが多い。これを積極的に行っているのが、中国海軍の病院船『和平方舟』だ。
『和平方舟』はメディア向けに使われる呼称で、920型病院船『岱山島』が正式な名称だ。英語では<Peace Ark>と呼称されている。2008年に就役した新しい病院船で、排水量は約23,000トン、病床数は300床と『マーシー』の3分の1の規模だが、これでも世界第2の規模を持つ病院船だ。
就役以後、「和諧使命」というミッションで世界各国を度々訪問し、医療提供の人道活動を行っている。「砲艦外交」は軍艦によって軍事力を誇示し外交に生かすものだが、中国は病院船の活動によって、相手国に軍事的脅威を抱かせずに自国の存在感を誇示しようとしており、中国の外交戦略の一助ともなっている。
実はこの『和平方舟』、東日本大震災の際、日本への派遣の打診があった。官邸や外務省としては日中関係改善の契機になるとの見方もあったが、結局は被災地の港湾施設が損傷しているので横付けができないとして断っている。
ロシアにも専用の病院船が3隻
他の国での病院船はどうだろうか。専用の病院船としては、ロシアのオビ級が3隻ある。ただ、米中の病院船と異なり、平時から海軍の医療施設として機能しているため、海外で人道活動に使われることはない。