そこに大打撃を与えたのが、インバウンド需要の増加だ。コロナ後に訪日外国人客が増え、飲食店を中心にコメの消費が激増した。けれども、これまでギリギリの需給で生産してきたコメ農家は、急に生産量を増やせと言われても対応できない。休耕田を元の状態に戻すには2年ほどの月日がかかるため、結果として需要に対して供給が追いつかないのが現状なのである。

備蓄米放出では下落は見込めない

政府は3月、コメの価格高騰を落ち着かせるため、“消えた”とされるコメと同量の備蓄米21万トンを放出した。しかしスーパーなどの店頭に届いたのは全体の約1.4%にとどまり、コメ不足感の解消と価格下落には至っていない。

私は各メディアで、備蓄米の放出をしたとしても一時的に価格が1割下がる程度で、劇的な価格下落は見込めないだろうと主張してきた。コメ不足の根本的な解決とはならないからだ。農林水産省や政府関係者の一部に「備蓄米を放出すればコメの価格が下がる」と信じて疑わない人たちがいるようで、それが事態を悪化させているように思えてならない。

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簡単な例で考えるとわかりやすいだろう。たとえばコメを集荷業者Aが3000円で買い付けたとする。それを卸業者Bは価格上昇に応じて3500円で買い取った。となれば、卸業者Bは3500円以上で売らなければ赤字になってしまう。なおかつ来年もコメ不足が続くとわかっている状況なのだから、仕入れ価格以下で販売しないのは当然の話だ。一部の専門家が「備蓄米が流通すればコメの価格が下がる」と大真面目に主張していたため、そう信じてしまうのは致し方ない話なのかもしれない。

政府は下げるつもりがないのではないか

備蓄米を流通させてコメの価格を下げたいのであれば、市場が破壊されるほどの量を放出しなければダメ。そうすれば、投げ売りになって価格高騰は落ち着く。中途半端な量を放出しても、そう簡単にコメの価格を下げることはできないのである。