今はインバウンドの増加と相まって、コメの需要が殺到している状態だ。だからといって低収入でコメを生産している農家にとって、先行きが不透明な中で増産に転ずるのは得策ではない。やはり今後は、生産量は増やさず価格を引き上げる方向で進んでいくことになるだろう。

「農協つぶせ」と言うのは簡単だ

コメ市場を改革するために、農協を今後どうしていくのかという議論もある。

農協がこれまでコメの流通をほぼすべて牛耳り、コメの価格を一方的にコントロールしてきたのは事実である。今回の問題でも「コメ市場の半分を農協が牛耳っているのはけしからん」と批判を集めているが、すでに食管制度は廃止され、コメ市場は縮小の一途をたどっている。需要がどんどん先細りしていくマーケットに農協以外の大手プレイヤーが参入してくるはずがなく、新規参入を促すのは到底無理な話なのだ。

ADVERTISEMENT

コメが不足しているのは農協が出荷量を調整しているからだという見方についても、同じ。農協には組合員である農家を守る使命がある。コメが値崩れしたらアウトなのだから、コメの流通量をできるだけ絞りたいと考えるのも当然だろう。

「農協をつぶせ」と言うのは簡単だが、現実的にそうはいかない。全国の農家などから集めた資金はJAグループの中央機関である農林中央金庫に預けられ、運用で得られる収益で農協を支えている。さらに、農林中央金庫は日本の国債を買い支える機関投資家でもあり、日本の金融システムとも密接に関係している。

農協が崩壊すれば、農林中央金庫も崩壊する。「コメの流通に悪影響だから農協をつぶそう」というわけにはいかないのだと、よく理解しておく必要がある。

30年放置したツケがまわってきた

今回の問題は、我々の主食であるコメや基幹産業である農業を今後どうしていくのか、その負担を誰が負うのかという議論を30年もの間放置してきたツケだと考えている。今まではたまたま需給のバランスが取れ、コメの価格が安定していたに過ぎないのである。