そもそも政府は、備蓄米の放出によって価格を下げるつもりはないのだろう。政府は備蓄米入札の参加条件として「1年以内の買い戻し」を求めた。これを緩和する動きもあるが、入札した農協(JA)などの集荷業者は、原則1年以内に同じ量のコメを政府に返す必要があるということだ。
コメ不足の状況は今後も続くと予想される。入札したはいいものの来年はさらに高い価格でコメ農家から買い取り、政府に返さなくてはならなくなる。集荷業者としては損をしたくないので、卸業者への引渡しを控えているのだろう。
卸業者は飲食店を優先する
また、飲食店の存在も大きい。「そうは問屋が卸さない」という言葉を聞いたことがあるだろう。「都合のいいことをいっても思い通りに問屋は卸してくれない」といった意味で、備蓄米が小売店に回らないのはこの言葉の典型ともいえる状況だ。
卸業者にとって一番の顧客は、飲食店である。飲食店がコメを切らすのは死活問題。小売店であれば「コメは売り切れです。ごめんなさい」で済むかもしれないが、飲食店の場合「コメがないので今日は定食を出せません」というわけにはいかない。
ビジネスにならないうえ信用問題に関わるため、飲食店が普段から米を多めに確保しようとするのは商売上やむを得ないこと。卸業者もそれを理解しているから、あらかじめコメを確保しておき、優先的に飲食店に卸すのだ。これはごくごく当たり前の商行為であり、「コメを投機目的で買い占めた」と悪いニュアンスで捉えるのは正しくない。
「減反政策のせい」ではない
また、コメが不足しているのは減反政策のせいだという批判をよく聞く。しかし、これも正しくない。減反政策はコメの生産量を減らすことで価格を維持する政策で、50年にわたる実施を経て2018年に終了している。それによりコメ農家は自由に作付け計画を立てられるようになったが、コメの価格維持を名目に、政府はいまも一定量の減産を求めているのが実情だ。