また、所有者の男性は、乙姫滝の歴史を教えてくれた。所有者の親族が1980年頃まで、川沿いでキャンプ場を経営していたという。最初に見た朽ちたバンガローは、そのキャンプ場の跡地だったのだ。
その後、キャンプ場から乙姫滝に至る遊歩道を整備。我々が前進を断念した箇所には、川の上に張り出す形で、単管を組んだ遊歩道が造られていたという。しかし、1985年頃に川が増水して流されてしまい、以降、通れない状態になっている。
町村合併により本巣市になる以前の1991年、乙姫滝は本巣町の名勝に指定された。その時、滝のそばに“天然記念物(名勝)金原乙姫滝”という石碑も設置した。その石碑を設置する際、林道から100メートルのロープを使って川に下ろしたとのことだった。
所有者にお礼を言って別れた後、私は考えていた。朝から探索を続けていたが、現在の時刻は午後4時。日没まであと1時間ほどだ。諦めムードが漂っていたが、私は諦めきれていなかった。
約1時間後に日没が迫るなか“再挑戦”に
「もう一度、行ってみよう」
私は車に常備している20メートルのロープも取り出し、再び林道に戻った。
1時間ほど前に来たばかりの地点から、再び30メートルのロープを使って降下する。そこからは、私が車から持ってきた20メートルのロープを使い、さらに下りる。この先は、未知の世界だ。
ロープ2本を使って下りてきたが、川面まではまだ距離がある。川面近くは直角に近い絶壁になっていて、ロープがなければ下りられない。私は上に残っていた仲間に、20メートルのロープをほどくように依頼した。これを使えば、なんとか川面まで下りられる。だが、それと引き換えに、帰ることができなくなってしまう。
私はこうなることを予想して、先ほどロープで下っている際に、周囲をよく観察していた。倒木や木の根っこに掴まれば、ロープがなくてもなんとか登れるだろう……。そう考えたのだ。
そして、日没間際の午後4時50分、ようやく川に降り立つことができた。上流側に振り向くと、そこに立派な滝が見えた。ずっと目指し続けていた乙姫滝だ。



