謎の穴の正体とは?
インターネットで検索してもそれらしい文献がヒットしないため、まずは管轄の漁業組合に連絡した。しかし、明確な解答を得ることはできなかった。
続いて千葉県の水産課に連絡してみる。すると、そこで興味深い話を聞くことができた。どうやら、元を辿ると何十年も前にイセエビの追い込み漁で使われていた穴なのだそうだ。それ以上の詳しい話は当時の状況を知る者がいないとのことで、不明ではあるものの、生け簀以外の目的があることがわかっただけでも、一つ謎の穴の真相に迫ることができたといえよう。
これ以上の詳細を得るには当時を知る漁師に直接話を聞くほかない。穴が点在する磯付近の漁港へ赴いた。
半世紀も前に作られた漁業遺産
港へ到着すると数名の漁師さんが作業をしていたので話を聞いてみると、テングサを採取しているという。テングサはところてんや寒天の原料となる海藻で、黒潮の通る海域の浅瀬で採れるそうだ。
強風後の底荒れした海で釣りをするとよく針に引っかかってくるが、房総半島では漁業権のかかった貴重な水産資源だ。テングサが港のそこらで天日干しされた光景は房総を象徴する風景でもある。
作業の合間、漁師さんに磯にあいた穴について話を伺ったところ、なんと親族の方が穴を掘ってイセエビの追い込み漁をしていたという。
聞き進めていくと、今から50年以上も前からすでに現在の主流であるイセエビの刺し網漁と並行して追い込み漁が行われていたそうだ。さらに当時、生け簀としても利用されており、釣り人に伝わる生け簀説も間違いではなかった。
しかし20年ほど前に(記憶は曖昧とのこと)磯に穴を空ける漁法の是非が問われ、漁業組合から追い込み漁自体の禁止が下り追い込み漁は姿を消したという。つまり謎の穴は半世紀も前に作られた漁場であり、今となっては役目を終えた漁業遺産なのだ。
しかし「房州海老」とブランド化されるほど、イセエビの産地としても有名な房総の古き漁を知る者はもう少ないのだろうか。たまたま当事者に会うことができたのは運がよかった。


