――ポルトガル時代は寿司一筋でやってこられた?

ミオ そうですね。餃子をつくったり、春巻きを揚げたり、あとは創作和食のようなものはやってましたけれども。それでも昆布からだしをとるということはなくて、顆粒だしとか。

 いまはスペインに鰹節をつくっている日本の会社がありますが、当時(2000年代)は鰹節も昆布もヨーロッパでは手に入りにくかったのと、そもそも誰もやっていないから、だしの取り方もわからない。あまりこういうことを言うのはよくないかもしれませんが、繊細なだしの味がわかるようになるには経験が必要なので、だしに比べるとお寿司のほうが(日本食として人気が出るのは)圧倒的に早かったと思います。

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――お椀を味わうより、寿司のほうが、馴染みのない人にとってはわかりやすいおいしさ、ということでしょうか。

ミオ 寿司は寿司で、お醤油にどっぷりつけて、わさびをてんこもりにして食べる人もけっこういらして。リカルドも、そこのところがずっと抜けたままお寿司をやっていて、どうしても自分で体得したいから、日本に来たっていうところはあります。

――先ほど握っていただいたアオリイカが、甘くてねっとりしていて、倒れるくらいおいしかったです。シャリもお酢が効いていて。

©志水隆/文藝春秋

リカルド アオリイカは寝かせてます。冷凍して、繊維が壊れて甘みが出て、やわらかくなります。

――そういった技術はどちらで習得されましたか。

リカルド 日本に来て、先輩から。アオリイカはポルトガルにないから。

ポルトガルと日本の違いは「言わなくてもいい」

――日本に移住されて、お仕事をされる上で大きな違いなどありましたか?

リカルド それは言わなくてもいい。わるいことありますね。ポルトガルがだめとか、そういうことは言わない。

――えっと、リカルドさんの目から見た違いがあれば伺いたかったのですが、「言わなくてもいい」という回答がリカルドさんらしいというか、お人柄が垣間見えていいなと。

ミオ 迂闊に話すと(ポルトガルの)わる口になっちゃうので、自重してるんだと思います(笑)。

 

 ポルトガルでは、本当になにもよくわかっていないまま仕事をしていて、日本に来てから辻褄合わせというか、答え合わせというか、ちゃんとした料理人さんから教えてもらって、理解が進むわけですよ。なぜ魚に塩をあてるのか、なぜこういう締め方をするのか、なぜアオリイカは寝かせたほうがいいのか、きちんと理解ができるような経験ができたのは、やっぱり日本に来てからなので。