生まれ育ったリスボンを飛び出して、温泉旅館での住み込み修業から、江戸前鮨、銀座の割烹、京都の懐石料理…数々の名店での経験を経て、丹後半島へ。

 2022年にオープンし、2024年、2025年にはフランス発祥のレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ」に2年連続掲載された、京都府北部・宮津にあるカウンター鮨割烹「西入る」。カウンターで鮨を握る店主のリカルド・コモリさん(44)が、「西の最果て」から日本海沿いの小さな街にたどり着くまで。その道のりを伺った。(全2回の1回目/続きを読む)

©志水隆/文藝春秋

※このインタビューには、共に店に立つリカルドさんの妻・小森美穂さんが通訳も兼ねて参加しています。

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ポルトガル出身の料理人が温泉旅館で住み込み修業

――リカルドさんはリスボンの調理師学校を卒業後、現地の日本食レストランで15年ほど働かれていたそうですね。そのなかで「本物を知りたい」という気持ちを抑えられず、2015年に日本人の奥さまとともに来日されて、あらためて日本料理の修業をなさったとか。

リカルド・コモリさん(以下、リカルド) 山梨、伊東、草津(群馬)。

 最初の3年は、3つの温泉旅館にいました。

――3年も。しかも旅館ですか。

リカルド (妻と離れて)単身赴任です。独身寮があって、そこに住んでいました。

――慣れない日本で、いきなり寮生活は大変だったのでは?

リカルド はい、けっこう。1カ月で20キロ痩せた。

――えっ、そんなに。

リカルド 草津にいたときが一番痩せてて、73キロ。いまは90キロあります。

 

――痩せられたのはストレスで…?

リカルド 山に登って。山梨の旅館にいたときは、休みの日に富士山にも登りました。5合目から、3時間で。

――3時間は速い。

リカルド ふつうは6時間かかるけど。帰りは一度もストップしないで、走って下りました。

妻の小森美穂さん(以下、ミオ) 旅館って、朝食があるじゃないですか。朝7時から朝食を出して、間に休憩はあるんですけど、また夕食の仕込みがあって。朝が早いのでどうしても健康的なサイクルになって、職場まで自転車で通ったり、空いている時間にトレーニングをしていたら、あっというまに痩せて。

――もしかして、いい意味で痩せられたのでしょうか。

リカルド 仕事のあと、夜に河口湖の周りを走ってました。18キロ。「(日本料理の仕事が)もっと(うまく)できる、もっとできる、もっとできる」って、頭で考えながら。