ある日ロッカーに「今週末ひまなんだ、助けてー」というメモが…

――しゃべらないままどうやって仲良くなったんですか?

ミオ まかないでカツ丼つくったのは覚えてる。すごいおいしかったーって言ってくれて。でもカツ丼きらいな人っていないですよね。

リカルド まかないで日本食が出ることがそれまでなかった。

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©志水隆/文藝春秋

――きっとミオさんのカツ丼がおいしかったんだと思います。だけどそれだけで付き合うことになるんですか。

ミオ 私はお店を立て直すのに必死で、職人さんが来てくださるというだけで心強かったですね。あとはなんかね、私にいろいろ聞いてくるんですよ。これはどうしたらいいかとか、私も1カ月しか勉強してないから教えていいんだろうかって戸惑いながら、けっこう楽しかったのを覚えています。モンゴウイカの模様がきれいだねって、会話したり。

――英語でモンゴウイカのうつくしさについて。

ミオ それでもあんまりしゃべらないんです。そうしたらある日、ロッカーに手紙が入っていて、「今週末ひまなんだ、助けてー」みたいなメモが。

――それはお誘いですよね。

ミオ そうです。まだとってあるよ、あの手紙。

リカルド 私は持ってない。

ミオ 私が持ってる。

――あはは。最初から好きだったんですね、一目惚れですか。

リカルド はい。

――ミオさんもいいなって思ってらしたんですよね。

ミオ はい。やっぱり真面目だし、仕事もきっちりやるし、誠実なのはすごく伝わってきました。それはいまも変わらないですね。リカルドは自分にも嘘をつけないし、裏表がぜんぜんないです。

 私たちは、いまもそうですけど、仕事とプライベートを切り離すっていうことが一度もないんです。

――リカルドさんは、ミオさんのどういうところを尊敬していますか?

リカルド むずかしい質問ですね。けっこう手伝いをよくしてくれますね。

――先ほどおふたりで並んで調理場に立って、ひとつの鮨を仕上げる姿が印象的でした。阿吽の呼吸で、横からそっとお箸を入れられたり。

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 ポルトガルから日本に移住されるときも、先手先手で動かれて、ミオさんのサポート力も素晴らしいです。ミオさんは、もっとポルトガルにいたいというお気持ちはなく?

ミオ 私は私で、大きな病気に、その時期なっていたんですね。リカルドとふたりで「BONSAI」(日本食レストラン)を運営しながら治療をやっていて、けっこうもういっぱいいっぱいで…。ここでやるべきことはやりつくしたなという気持ちもあって、これは日本に帰っていいだろうって思いました。

――おふたりの、サイクルが合ったんですね。

ミオ 次のステージへ進もうというのが、ふたりの認識でしたね。