付け加えるならば、対戦相手が永瀬であることも影響しただろう。感想戦で藤井は、△2二歩を打つと竜を自陣に引かれるのでと言っていた。永瀬といえば受け将棋であり、「馬は自陣に、竜も自陣に」という思考だ。永瀬に竜を引かれると厄介だという意識が働いたのかもしれない。

 藤井は寄せ合いに出たものの、その後5手詰めの詰めろをうっかりするという、藤井らしからぬ見落としで逆転を許した。

この日の古河はあいにくの雨

第5局、2度目の千日手、そして激戦へ

 かくして5月29日・30日、茨城県古河市の「ホテル山水」で名人戦第5局を迎えることとなった。

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 先手の永瀬はいつも通り角換わり腰掛け銀に誘導し、藤井は右玉に構えた。永瀬を相手に右玉を採用するのは、2023年の第71期王座戦五番勝負第2局、今年の第74期王将戦七番勝負第3局に続いて3局目である。そして42手目、右側の金を引き、金をタテヨコに動かして待ったのが藤井の研究手だった。この金の動きによる手待ちは、永瀬の研究をかいくぐった。永瀬は4筋から突っかけるが、藤井は金銀で防波堤を築き、本格的な戦いが起こらぬまま1日目を終えた。

 2日目、私は湘南新宿ラインに乗って古河駅へ向かった。東京から埼玉、栃木へと路線は続くが、途中の古河駅だけは茨城県の西端に位置している。10時前に現地控室に到着し、立会人の藤井猛九段、副立会人の千田翔太八段(毎日新聞)、斎藤明日斗六段(朝日新聞)、現地大盤解説会の佐藤紳哉七段と宮宗紫野女流二段に挨拶をする。

控室にて、副立会人の千田翔太八段(右)、現地大盤解説会の佐藤紳哉七段(中央)と宮宗紫野女流二段(左)

市を挙げて名人戦を応援

 さっそく佐藤に「日清のどん兵衛」CM出演の話を聞いた。「もっと噛んで読むパターンも収録したりして大変でした。豊島さんは2時間ほどで収録を終えて帰りましたが(笑)。前夜祭には、わざわざ『どん兵衛』を持ってきた方がいて、記念写真を撮りました」と彼は笑った。

佐藤紳哉七段が出演した日清のどん兵衛CM「二軍どん兵衛も強いよね 篇」

 第5局が開催されたことを一番喜んでいたのが、地元古河市出身の宮宗だ。