史上初の2局連続千日手成立

 さて、千田と斎藤と一緒に局面を検討していると、またも千日手になりそうであった。永瀬が打開するためには駒を前進させなければならず、自陣に隙ができてしまう。それは永瀬好みの布陣ではない。藤井猛が慌てて対局規定を確認する。永瀬は29分、28分と連続で時間を使うも打開に踏み切れず、午前10時59分、千日手が成立した。名人戦での2局連続千日手成立は史上初である。

控室で対局規定を確認する立会人の藤井猛九段

 斎藤が「副立会人を務めるのは初めてなんですが、まさか千日手とは」と驚くと、藤井猛は「技術が高くないと千日手には持ち込めないからねえ。2人の実力が拮抗している証拠だよね。だけど立会人としてはねえ……」とぼやいた。終局が遅くなるため関係者は大変なのである。

 藤井猛の差配で11時30分に指し直し局開始となり(1時間以内に指し直すのが規定)、その30分後には昼食休憩に入った。

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 休憩時に、藤井猛と私は昨年のことを思い出していた。2024年7月6日・7日、藤井王位に渡辺明九段が挑戦した伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦七番勝負第1局である。その将棋も2日目の15時44分に千日手となり、終局は21時を過ぎた。そして藤井猛が立会人で、私は新聞のウェブ観戦記を担当していた。

 偶然のこととはいえ、藤井猛が「あなたと一緒だとなにかが起きるね」と言って、2人で苦笑いした。

 写真=勝又清和

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