藤井聡太名人に永瀬拓矢九段が挑戦する第83期名人戦(主催:毎日新聞社・朝日新聞社・日本将棋連盟、協賛:大和証券グループ)七番勝負第5局は、5月29日・30日、茨城県古河市の「ホテル山水」にて行われた。2日目の午前10時59分に千日手が成立したため、名人戦では史上初となる2局連続千日手となった。

名人戦第5局は、茨城県古河市の「ホテル山水」にて行われた

対局室は和やかな雰囲気

 13時に対局が再開すると、斎藤と千田の両副立会人が揃って対局室で見守っているのがモニターに映った。神妙に座っている姿を見て、私が「助さん格さんですか」と言うと、藤井猛が「おれは水戸黄門か?」と笑った。とても2日目の午後とは思えない和やかな雰囲気だ。

 指し直し局、後手となった永瀬が選んだのは第2局と同じ飛車先保留3三金型角換わりだった。藤井相手に同じ作戦で大丈夫なのかと見ていると、46手目に永瀬が手を変え、6三にいた銀を5二に引いた。「まあすぐに元の位置に戻すよね」と私が言うと、斎藤が「いや、違うんです」とわれわれを驚かせた。

ADVERTISEMENT

副立会人の斎藤明日斗六段

「銀を5三にスライドさせるんです。研究会で永瀬さんにこんな構想はどうかと、アイデアを話したことがありまして。5三銀-6二金が連絡が良くて好形になります。また5三銀が動きやすいんです」

 そういえば、飛車先保留3三金型も、もともとは斎藤の新手ではないかと尋ねてみる。

「ええ、2024年6月に永瀬さんに指しまして、その翌日にも研究会で指しています」

斎藤と永瀬は互いに高め合う関係

 斎藤は永瀬より6歳年下で、長年研究会を共にしてきた仲間だ。

「私が2017年10月に四段になって、すぐに声をかけていただきました。最初はまったく勝てなくて、いつクビになるかとビクビクしていました(笑)。見どころがあると感じてくれていたんでしょうか。ずっと続けてくださって感謝しています」

控室での検討の様子

 斎藤は昨年度C級1組順位戦を9勝1敗で昇級するなど、上り調子だ。永瀬は斎藤をABEMAトーナメントでチームメイトに指名したこともある。永瀬が奨励会や四段の頃から鍛えて強くした棋士は数多いが、斎藤は永瀬ファミリーを代表する出世ぶりである。お互い、得るものがあるから練習将棋を指すのだ。永瀬が藤井を強くし、藤井が永瀬を強くした。永瀬が斎藤を鍛え、斎藤のアイディアを永瀬がブラッシュアップする。