観客の「参加」によって仕上がる作品
今展は世界を牽引してきたアーティスト、オノ・ヨーコの作品世界を生身で体験できる貴重な機会となる。ふたつの会場で、どんな展示が繰り広げられているのか。展示の構成や設置を指揮したオノ・ヨーコのスタジオ・ディレクター、コナー・モナハン氏に伺った話を交え、見ていこう。
六本木の会場に足を踏み入れると、まずは初公開の作品《Three Lives》と対面することとなる。楕円形の大きい鏡が並んでおり、一枚はそのままだが一枚は破損し、もう一枚は光源によって照らされている。鏡の前を鑑賞者が移動することによって、鏡像に変化が生じていく。
会場奥へ進むと、壁際にそっと置かれているのが《Mind Object I》。白色や透明の球体、一本のタバコ、一枚のコイン、石でできた本、塩入れがきれいに並んで、ひとつのオブジェを成す。眺めているだけでだれの心にも、きっと何かを想起させそうなたたずまいだ。
さらに別室の机上には、もとは器だったのだろうか、無数の破片が散らばっている。その全体が《Mend Piece》と題された作品だ。ヨーコによるインストラクションが付いており、「知恵で修復しなさい 愛で修復しなさい それは同時に地球を修復するでしょう」と観衆に語りかけてくる。今回の展示では、能登半島地震で破損した白磁破片が使われているという。
天王洲の会場も覗いてみると、こちらの床には《Wrapping Piece》の展示がある。包帯と球体状の物体が用意してあり、鑑賞者は好きなだけその包帯を球体に巻きつけていける。作品に関与した一人ひとりが、他者を手当・保護・覆い守るということの意味を、再確認していくしくみだ。
壁面では《Draw Circle Painting》が展開されている。真っ白のキャンバスがいくつも掛けられており、来場者はそこにペンで自由に丸を描くことができる。つまりここでは作品が、観客の手によって仕上げられていくわけだ。
「六本木の展示では精神的な参加を、天王洲では物理的な参加を促しています。ヨーコはどちらの参加方法も重視していて、両者がそろって初めて、世界を変えることにつながっていくと考えています」
と、コナー・モナハン氏が教えてくれた。





