観客の「参加」によって仕上がる作品

 今展は世界を牽引してきたアーティスト、オノ・ヨーコの作品世界を生身で体験できる貴重な機会となる。ふたつの会場で、どんな展示が繰り広げられているのか。展示の構成や設置を指揮したオノ・ヨーコのスタジオ・ディレクター、コナー・モナハン氏に伺った話を交え、見ていこう。

 六本木の会場に足を踏み入れると、まずは初公開の作品《Three Lives》と対面することとなる。楕円形の大きい鏡が並んでおり、一枚はそのままだが一枚は破損し、もう一枚は光源によって照らされている。鏡の前を鑑賞者が移動することによって、鏡像に変化が生じていく。

オノ・ヨーコ Yoko Ono 《Three Lives 》 2019 Three mirrors with steel frames, plywood, led lights, electrical wiring  h.153.0×w.61.6×d.5.7 cm (each) ©Yoko Ono, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

 会場奥へ進むと、壁際にそっと置かれているのが《Mind Object I》。白色や透明の球体、一本のタバコ、一枚のコイン、石でできた本、塩入れがきれいに並んで、ひとつのオブジェを成す。眺めているだけでだれの心にも、きっと何かを想起させそうなたたずまいだ。

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オノ・ヨーコ Yoko Ono 《Mind Object I》 1960/1966  Acrylic, marble, coin, cigarette, salt shaker  h.2.5×w.45.5×d.30.0 cm ©Yoko Ono, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

 さらに別室の机上には、もとは器だったのだろうか、無数の破片が散らばっている。その全体が《Mend Piece》と題された作品だ。ヨーコによるインストラクションが付いており、「知恵で修復しなさい 愛で修復しなさい それは同時に地球を修復するでしょう」と観衆に語りかけてくる。今回の展示では、能登半島地震で破損した白磁破片が使われているという。

小山登美夫ギャラリー六本木、オノ・ヨーコ《Mend Piece》のある会場風景 Installation view from “A statue was here” at Tomio Koyama Gallery Roppongi, Tokyo, Japan, 2025 ©Yoko Ono photo by Kenji Takahashi

 天王洲の会場も覗いてみると、こちらの床には《Wrapping Piece》の展示がある。包帯と球体状の物体が用意してあり、鑑賞者は好きなだけその包帯を球体に巻きつけていける。作品に関与した一人ひとりが、他者を手当・保護・覆い守るということの意味を、再確認していくしくみだ。

 壁面では《Draw Circle Painting》が展開されている。真っ白のキャンバスがいくつも掛けられており、来場者はそこにペンで自由に丸を描くことができる。つまりここでは作品が、観客の手によって仕上げられていくわけだ。

「六本木の展示では精神的な参加を、天王洲では物理的な参加を促しています。ヨーコはどちらの参加方法も重視していて、両者がそろって初めて、世界を変えることにつながっていくと考えています」

 と、コナー・モナハン氏が教えてくれた。