誰もが日々、スマホで簡単に撮影できるこの時代に、写真で表現活動をするとはどういうことか。わたしたちにとって写真とはどんな存在なのか。そんな問いに答えを見出せそうな展覧会が、写真、映像を専門に紹介する東京都写真美術館で開かれている。「総合開館30周年記念 鷹野隆大 カスババ ―この日常を生きのびるために― 」だ。
©Takano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates
毎日写真を撮り続けて20年超
鷹野隆大は1990年代から、写真を用いて創作を続けてきた。作風は幅広く、セクシュアリティをテーマとしたポートレートがあると思えば、日常のスナップショットを集めた作品もあり、近年は「影」を被写体とした実験精神あふれる写真にも注力してきた。
今展では、鷹野の多様な取り組みを通覧することができる。出品されているシリーズで主だったところを挙げてみると、まずは〈毎日写真〉。1998年から毎日欠かさず写真を撮ると決めた鷹野が、日々撮り溜めてきた写真からセレクトしたもので、作家の住まいにほど近い東京タワーが頻出する。
〈In My Room〉は、自分の部屋に被写体を招き入れて、時間をかけてポートレートを撮影するもの。〈おれと〉も人物写真で、こちらは作家と被写体がともに裸体となって並び写るスタイルをとっている。
〈CVD19〉はコロナ禍に撮影された。ゴム手袋をつけた手が絡み合う様子を、カメラではなくスキャナーを用いて表現した。触れ合うことの意味まで変容してしまったあの時期の、多くの人が共有する記憶が思い起こされる作品だ。
さらには〈カスババ 2〉も観られる。展覧会タイトル にもなっている〈カスババ〉とは、「カスのような場所(バ)の複数形」を意味する鷹野の造語。日本の都市には、どうにも絵にならない、雑多で無秩序な場所がたくさんある。それらとあえて向き合い撮影することで、自分が生きているありのままの世界を写真に表そう、というねらいのもとつくられる作品だ。
〈カスババ〉はしばらく制作が続けられたのち、東日本大震災後の 2011 年から、続編の〈カスババ 2〉へと引き継がれた。鷹野は当初、無計画にできあがった日本の都市風景に苛立ちながら撮影していたが、だんだんそこにおもしろさを感じ、写真としてある種の見どころがあるとすら思い始めた。
ありのままの日常を見つめ直すことで鷹野は、一見冴えない場所や瞬間にこそ豊かさや美しさがあると主張している。タイトルに含まれる「この日常を生きのびるために」との文言は、そうした考えを表したものだろう。