「現実の世界」が揺らぐ瞬間

小池:私も、自分の家があった場所が50年後にまた元の景色に戻ってるのを見た時に、歳月が流れたという感覚よりも、もともと更地のままだったんじゃないかという感覚の方がリアリティがあったんです。三津田さんの教科書がなにかの拍子に現実に現れたりしたら、きっと同じように時空の狂いを感じると思うんです。だから私は、この世の中って我々の気がつかないところで、意識の上で適当な辻褄合わせがおこなわれているだけじゃないかと思うことがあるんですよね。

三津田:そういう実感を本に書こうとは思わないんですか?

小池:どういうふうに書けばいいのか、難しいですよね。

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三津田:事例を集めて書くしかないですか。

小池:『幽霊物件案内』も、ある意味で事例集ですが、やっぱり少し時間が経ってからでないと生々しすぎる。あの本の中で、例えば病院の話とか、ああいったバカバカしい話のようでも、一応本当のことなんですよ。

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三津田:あのドロップの話とか、妙に気持ちが悪い。下手をしたらギャグになるような話なんですけど、やっぱり気持ち悪い。

小池:なんとか無事にあの病院を抜け出したんですけど、抜け出してなかったらやばかった。

三津田:そうですね。それが伝わってきますからね、やっぱり。

小池:まだ傷が残ってるんですけど、腕を複雑骨折したんですね。それで、そのデンマさんていう人がドロップをくれる病院に入って手術することになってたんですけど、その病院で一番腕がいいと言われてる医者が手術できないという判断で、そのままギプスで固めることになったんです。そのためには骨をきちんと組み立てないと変な風に固まっちゃうのに、それを承知で組み立てないまま固めようとしたので逃げ出しました。

三津田:よく逃げ出せましたね(笑)。

小池:別の病院のお医者さんが、1つ1つ組み立てて直してくれたんです。

三津田:やっぱりドロップを食べなかったのが良かったんですよ(笑)。もし食べていたら、きっと病院から出られなかったでしょう。