真っ青な海と空が広がる海辺の街。アーティストの移住支援を掲げるこの街には、どこか怪しげな人々が次から次へとやってくる。詐欺師めいたカップル。借金から逃げる彫刻家とそれを追う女。そんな大人たちの巻き起こす事件の数々を、中学校の美術部に所属する奏介を始め、夏を楽しむ子供たちが見つめている。
『俳優 亀岡拓次』『いとみち』の横浜聡子監督の最新作『海辺へ行く道』は、2016年に亡くなった漫画家・三好銀によるシリーズの映画化。元々原作の大ファンだった横浜監督にとって大きな課題は、作品の舞台となる架空の街をどう映像で表現するかだった。
「原作シリーズの表紙は、手前の建物から遠くの海を眺めたちょっと幾何学的な絵で構図もきっちり決まってる。これと同じ景色を現実に見つけるのは相当難しいだろうなと悩みました。ある種の不自然さを備えた世界が魅力の原作でもあるから、いっそのこと全部スタジオ撮影にして、建物はセットで海は書き割りでと、完全にフィクショナルな世界観で撮ったらいいかなと考えたりもしました」
悩んだ末に選んだのは、瀬戸内海に浮かぶ小豆島でのオールロケ撮影。陽光きらめく島の風景が存分に生かされた。
「ちょうどコロナ禍に入った時期に脚本を書き始めたこともあり、やはり実在する場所で撮りたいという気持ちが生まれてきたんです。それで海がある場所を色々調べるうち瀬戸内海に惹かれ、島々を見てまわるなかで最終的に小豆島に決定しました。小豆島は人が暮らしている気配と自然とが共存しているし、アート作品が街に点在していたり漫画に出てくるような幾何学的な建物が海の側にあったりとロケ地にはぴったりでした」
芸術家の移住という映画独自の設定が生まれた背景は。
「原作には不特定多数の人々が街にやってきては出ていく話が多くあります。それがコロナ禍以降に日本でも増えてきた移民のような生き方をする人々のイメージに繋がり、芸術家がある土地に一定期間滞在して作品作りをするアーティスト・イン・レジデンスという設定が生まれてきました。実は私自身、東日本大震災以降定住の必要性について考えるようになり、コロナ禍を機に家を解約し月額制で全国各地のゲストハウスに泊まれるサブスクを利用していたんです。そういう状況で脚本を書いていたので、移住というテーマは自然と生まれてきましたね」
横浜監督の過去作にはある種の凶暴さを持つ若者がよく登場したが、今回は困った大人たちを傍観する子供たちの飄々とした姿が新鮮に映る。
「これまでは少年少女の役を通して自分自身の怒りや憤りを表現しがちでしたが、最近は怒りより寛容の感覚が強くなってきた気がします。元々原作には、どんな人だろうと否定も肯定もせずただその人の存在を見つめようとする人間愛みたいなものが一貫してある。そんな三好さんの姿勢が、この映画のあらゆる人を対等に見つめる視線にも繋がったのかなと思います」
よこはまさとこ/1978年生まれ、青森県出身。長編第一作『ジャーマン+雨』(06)で注目され、続く『ウルトラミラクルラブストーリー』(09)がトロント国際映画祭ほか多くの海外映画祭で上映された。その他の監督作に『俳優 亀岡拓次』(16)、『いとみち』(21)など。



