ヨガで体が楽になり自然妊娠するも流産に

「子どもはあきらめたほうがいいですね」

42歳のとき、医師からそう切り出された。「子どもがいるのが幸せな家庭と思い込んでいたから、子のいない幸せは想像できなかった。将来が暗闇に覆われたと感じ、恐怖でした」と渡邉さんは振り返る。その頃、体外受精で得た受精卵も細胞分裂がうまく進みづらくなっていた。ただ夫は、「気のすむまで治療をやればいいよ」と言ってくれたため、最後にもう一度、体外受精に向けて採卵を目指した。

渡邉さんに変化をもたらしたのは、ヨガだった。週1回続けていたヨガを毎日行うようになると体が楽になり、43歳で自然妊娠をした。妊娠6週目で初期流産したが、ヨガを継続しているうちに44歳で再び自然妊娠をした。

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だがこのときも流産に。まもなく10週を迎えるところだった。つわりが急になくなり産婦人科を受診すると、赤ちゃんの心拍が停止していた。連休で流産の手術の予約が先になってしまい待っていると、自宅で15分おきに陣痛のような強い痛みに襲われた。やがて体の外に出てきた小さな赤ちゃんと対面。やさしくくるんで、朝まで一緒に寝た。

「私にとっては、ちょっとの間でもおなかに来てくれてありがたかった。その子には毎日心で声をかけるし、いつか会えるときまで頑張るよと思っている。それが私のよりどころになっているかも」

深い悲しみは、自分に自信を取り戻すきっかけも与えてくれた。

「母になることが一人前の証」と思い込んでいた

治療の終結前後は、「母になれないことで自分のアイデンティティーが崩壊するのでは」との恐怖に襲われた。しかし、ここでも大好きなヨガをしながら自身と向き合う時間を増やしていくうちに、ありのままの自分を受け入れられるようになっていった。

「ある日突然、苦しみから解き放たれたわけではない。時間が経つにつれて自然と受け入れるようになりました」

さらにNPO法人「Fine」で不妊ピア・カウンセラーの資格を取得し、患者らの相談にのるようになった。不妊の心理を客観的に学んだことは、自身を知るうえでも役立った。