「儀式」でお互いの気持ちを伝え合うプロセスを踏むことが、その先の人生で子どもがいないためにつらい思いをした場合でも、心を守れる「バリア」の役割を果たしてくれるという。

子どもができなかったその先に子どもを外部から迎えて育てるには、親が育てられない子と、子を育てたい夫婦が裁判所の許可を得て法的な親子関係を結ぶ「特別養子縁組」制度のほかに、虐待や親の病気などで元々の親との生活が難しい子どもに家庭環境を提供する「里親」制度がある。

不妊治療と並行して養子縁組の検討も

特別養子縁組では、子の対象年齢は原則15歳未満で、戸籍上も育ての親の実子となり、戸籍にも「長男、長女」などと記載される。縁組は児童相談所か、養子縁組あっせん法で許可された民間あっせん団体にまず相談し、研修や半年間の試験的な養育を経て、家庭裁判所の決定で成立する。

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特別養子縁組の成立件数は2019年度に711件に達し、それまでの10年間で倍増したが、それ以降は減少傾向にあり、制度が社会に広く知られているとは言いがたい。特別養子縁組で子どもを望むカップルの多くは不妊治療で子どもを得られなかった人たちだ。

ただし、いくつもの民間あっせん団体が、受け入れ側の親に年齢の要件を設けている。子どもを迎えたい人にとって特別養子縁組は「最後のとりで」かもしれないが、そのあたりを留意したうえで準備する必要がある。

民間あっせん団体の一つ、「さめじまボンディングクリニック」院長の鮫島浩二さんは「不妊治療を終えてから特別養子縁組を目指す人が多いですが、30代のうちから治療と並行して検討してもらえたら」と話す。縁組の手続きや子どもとのマッチングには時間を要する。養親の条件や費用などは団体ごとに異なるため、入念な情報収集も欠かせない。

「好きなことを手放さないで」

不妊治療の終結が近づいてきたとき、日々どのように過ごせばよいだろうか。キャリアコンサルタントで公認心理師の中辻尚子さん(54)は、自ら不妊治療のやめどきに悩んだ経験を持ち、不妊と向き合った女性たちが生きやすい環境について考えてきた。