「ひょっとこ」が大きな手がかり

 11月14日付埼玉には「紺のベレー帽を被っていた」とある。さらに18日付埼玉には、「画家ふうの男」の特徴の1つとしてその後、被疑者の男の代名詞となる表現が登場する。「ひょっとこ面」。「ひょっとこ」とは口をすぼめて曲げたような表情の顔や面のこと。元々は火吹き竹でかまどの火をおこした「火男」がなまったともいわれる。

 20日付朝刊で「バラバラ事件容疑者を逮捕 調布の自称画家」を報じたのは朝日だけだったが、それも数多い容疑者の1人のつもりだったのだろう。ベタ記事だったが、そこにもその特徴が出ていた。

【府中発】埼玉県入間郡高階村のバラバラ事件容疑者として、18日夜9時50分ごろ、埼玉県警捜査一課員は東京都北多摩郡調布町(現調布市)下石原の下宿人、古屋栄雄(28)を脅し(詐欺の誤り)の容疑で逮捕、連行した。大家の話によると、古屋は画家を自称しており、10月24~25日ごろ、「日活撮影所が出来上がったら勤めるので、部屋を貸してくれ」と来たもので、ひょっとこのような顔をした男だという。

「古屋逮捕」は小さい扱いだった(朝日)

 日活は日本最古の映画会社だが、戦時中は統合で映画製作から撤退しており、戦後の1953年に製作再開を発表。調布に撮影所を建設中だった。11月20日付毎日夕刊も古屋逮捕を報じたが、その前に別の容疑者が「白」になったので、「捜査線上に浮かんだ最後の容疑者だといわれ、捜査本部は古屋が白になれば、捜査は振り出しに戻ることになると語っている」と書いた。

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 同じ日付の埼玉はさすがに詳しく、「ひょっとこ面そっくり 一致するサインH・H」の見出しで、古屋が事件当日、現場付近を立ち回った「画学生」である根拠を列挙している。

1.  自室から押収した子どもの似顔絵のサイン「H・H」が、小学5年生女児に与えた似顔絵のサインと一致する

2. 人相が手配のひょっとこ面そっくり

3. 本人が昨年初めまで川越付近に下宿していた(土地鑑がある)

4. 黒のベレー帽、紺の背広、茶色のズボンが全く同じ

5. 筆跡が氷川神社で発見されたクロッキー(スケッチ)用紙の文字と類似している

 クロッキー用紙のことは一部の新聞に出ていたが、書かれた文字は被害者女性の筆跡とみられていた。埼玉の記事には逮捕した巡査の談話もある。「数日前から内偵を続けていた」「自宅付近の路上で逮捕した時、真っ青になりガタガタ震えていた」。だが、記事で県警捜査一課長は「現在までの取り調べでは白黒いずれかはっきりできない」と発言しており、“ホンボシ”かどうか、まだ半信半疑だったようだ。