気になるのは、これだと「人違い」ではなく、「似ているから身代わりに」だったことになる。21日付夕刊でも、朝日は見出しは「冷たい愛人と間違え」、本文も「似ているところから愛人と間違え」だが、「“好きな女”に似ていたので」が見出しの毎日は「よく似ており、身代わりに殺してやろうと思い立った」と記述。読売も「“愛人に似ていた”」の見出しで「似ているのでとっさに殺意を起こし」としている。

 発表した警察もそれを報じた新聞も「殺してバラバラにしたのは同じ」として、おかしいと思わなかったのだろうが、「間違えた」と「身代わりに」では事件の性格が微妙に変わり、判決の量刑にも影響するはず。のちに「人違いバラバラ殺人」と呼ばれるようになるが、肝心の点はこの段階ではあいまいなままだった。埼玉の記事は続く。

【凶行】前日の9月4日は東京・上野、浅草で野宿。5日朝9時ごろ、東武東上線に乗り、鶴瀬駅で下車した。徒歩で上福岡駅まで行き、ゴム紐を行商しながら高階村の方へ流して行った。午後6時ごろ、高階中学校の校庭に入ったところ、砂場で10人くらいの子どもが遊んでいた。鉄棒に飛びつき、体操を披露しているうち、子どもたちが帰ろうとしたので、鉄棒の端に掛けてあったズックのチャック付きカバンの中からナス、カボチャ、キュウリを描いた絵を、小さい女の子を連れた姉にやった。

 

 暗くなりかけたので、正門を出て川越方面へ歩きだした。新河岸駅前に出て、3~4軒あった食べ物屋のうち、64~65歳ぐらいの女性の店(森田屋)へ入り、握り飯3つ(50円)を食べ、ラムネ1本(15円)を飲んだ。この時、そばにあった厚い本の間に女性の裸体画2枚があったので、これを引き抜き(氷川神社拝殿で発見)、森田屋の広告マッチ(氷川神社で発見)を持って同店を出た。

「事件解決」を大きく報じる埼玉。古屋が自分が描いた映画の看板を前に写った写真も

自分を捨てた女とよく似た格好をしていた被害者

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 女性をあてもなく捜す旅。そこで偶然の出来事が起きる。

 電車で帰ろうとしたところ、若い女が駅付近をうろついていたので、電車に乗るのをやめ、駅前北側の井戸で水を5~6杯飲んだ。以前行ったことがある方向へ歩いて行くうち、白ブラウスに黒スカート、ズック靴を履いた女性を見かけた。これが不運な被害者だった。

 

 格好が自分を捨てた情婦によく似ているところから、むらむらと復讐心が燃え、肩を並べて踏切を渡った。標識の付近でやにわに右腕を被害者のあごへ下から差し込み、左手を上にして手ぬぐいで一気に締め付けた。被害者は声もなく、前のめりに倒れた。背後で人の声が聞こえたので、遺体を右脇の陸稲畑へ引きずり込み、人が通り過ぎるのを待って、付近の芋畑まで運んだ。ここで遺体を真っ裸にしてバラバラにした。