“老朽化した社会”を生きるアメリカ
――米ドルを基軸通貨とした戦後の秩序が崩れつつあるということでしょうか。
エミン その通りです。本書では、戦後の経済秩序をつくり出したブレトンウッズ体制からニクソン・ショックを経て、現在に至る流れを書きましたが、アメリカという帝国の威信はいま大きく揺らいでいます。
歴史的にみて、力のある覇権国は鎖国的な政策をとりません。オープンにすることで富と投資を呼び込み、交易を活性化させ、イノベーションを起こしてきました。いまトランプ政権のアメリカが急激に「閉じて」いるのは、弱体化する自国への不安が高まっている裏返しです。
例えばラスベガスを覗いてみてください。あの一大観光地ですら、いまや道路があちこちで割れているし至るところで建物や基本的なインフラが老朽化していて、治安が悪い。中国の深圳や上海など、アジアの勢いのある都市と比べても、ものすごく老朽化した社会を生きているわけです。もちろん富裕層が集まる一部の整備されたエリアもありますが、アメリカ国民の大多数は沈む帝国を前に、自信を喪失している。
基軸通貨としてのドルの力も弱まるなか、AIが日進月歩で進化し、戦後経済がつくり出してきた様々な生活習慣や、社会システムを大きく変えるディスラプション(創造的破壊)が進行しているわけです。
でもこれは逆に日本にとってチャンスです。21世紀の半導体戦争で各国がしのぎを削るなか、とくにテック分野でのリシャッフリングが起こって日本が台頭する余地は十分にありますから。
――興味深い指摘ですね。
インフレマインドへ――本格的な投資ブームが起きるとき
エミン 不確実な時代を生き残るためには、歴史を踏まえた大局観が必要です。冒頭の日経平均株価の話でいうと、世界的な流れのなかで日本もまた今後インフレが加速します。それを織り込み済みで、いわば「フロントランニング」で外国人の機関投資家たちは動いている。
僕が10年前から言っているのは、今のうちに日本人が買って仕込んでおかないとあとあと高値掴みで、外国人に美味しいところを全部持っていかれますよ、ということ。
興味深いデータがあって、日本人の個人の金融資産は2239兆円――このうち約半分が現預金です。いまこれだけ「NISAだ」「金融教育だ」と世の中が騒いで、ゴールドが上がり、株価が高値を更新しているなか、日本人が投資をしていると思うでしょう? ところが実態は、この1年で現預金の比率はわずか0.1%しか減っていないのです。
――非常に意外です! もっと株にお金が流れているのかと思っていました。




