娯楽的なアプローチで偏見を取り除く

このミュージアムの展示は、赤線の歴史を教育するものでありながら、同時に明白で強いイデオロギーを含んでいる。展示の語りはセックスワーカーへの差別や偏見を取り除くことを目指しつつ、そのアプローチは徹底して娯楽的だ。

例えば、展示のひとつに登場するのは、2006年にロシアからアムステルダムに移り住んだある娼婦の物語である。街には仕事がなく、子供を養うためにこの仕事を選んだという設定で、その個人史が来館者に娼婦という存在を理解させる導入となっている。語り口は、娼婦という属性やカテゴリーではなく彼女を個別の人として見せようとする。このように、展示は娼婦たちを人間扱いするという一貫した姿勢で展開される。

その物語を通じて、飾り窓地区における売春の仕組みが説明されていく。例えば、大家やスカウト、客といった関係者の役割や、支払いのタイミング、部屋の借り方など、具体的な労働の構造が説明されている。赤線地帯には250の部屋があり、娼婦たちは一日あたり上限300ユーロ程度でこれらの部屋を借りている。監視や経理も含めた管理体制が整っており、街の経済にとって大きな産業である。最初の展示室は実際に管理室として使われていた建物で、この意味では史跡博物館でもある。これが博物館の語りである。

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セックスワーカー当事者の言葉の展示

二階へと進む。売春が行われる部屋や待機室、SM用の特殊仕様部屋など各種施設内を見学できる。音声ガイドでは、実際に娼婦をやっていた人物の声が聴こえる。「汚いお客さんはお断り。体を洗って出直しておいで」。当事者の声による展示である(声の主はすでに引退済みだとも説明があった)。

さらに、イラスト風に壁に描かれたセックスワーカー当事者の言葉の展示がある。この職業に誇りを持っていることを強調する内容だ。

「わたしは娼婦ではありません。わたしはセックス・セラピストです。インガ、ロシア出身」
「男性がわたしの体のために喜んでお金を払っている――そのことがわたしを興奮させます。ヘレナ、ギリシャ出身」
「この職業は意気地なしには続けられない。わたしはどんどん強くなって、世間慣れしていった。エヴァ、オランダ出身」