例えば、客が娼婦の部屋に置き忘れた品々を展示する奇妙なセクションがある。日付や住所入りでメガネや手袋などが並べられており、なかには名前入りのデビットカードまで含まれている。レゴのパーツのような理由不明の品まであり、思わず笑ってしまった。

組織の母体は娯楽観光会社のB.V. Lijndenだ。カナル観光やレンブラントの生家を使った美術館のほか、ハリウッドやマンハッタンなど巨大観光地にお馴染みの「人体の不思議展(Body Worlds)」や「リプリーの信じようと信じまいと(Ripley’s Believe It or Not⁉)」など、超娯楽型の展示産業をリードする会社だ。これらと同様に、娼婦博物館も「好奇心を刺激する」ことには長けた展示施設だ。入場料は17ユーロと比較的高めで、これも娯楽観光ビジネス型の施設なので当然だ。

クイズ「ラバーボーイとは何か?」

クイズで知る娼婦の仕組み、といった問題を解きながら進むゲームのような展示がある。冒頭の展示で制度が説明されていた情報が次々と問われる。参考書で勉強して問題集を解いている気分だ。

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問題 ラバーボーイとは何か?
①彼女をセックスワーカーになるように全面的に支援する男で、娼婦にとって理想的なパートナーで本当の恋人(ラバー)でもある
②いわゆる“ボーイフレンド”とも呼ばれ彼女に娼婦としての労働を強いて儲けを根こそぎ取っていく

②! 正解。「ぽん引き(pimp)とも呼ばれるのよ」。娼婦が登場する動画で正解が説明される。日本のホストクラブとアダルトビデオ産業のような共犯関係はここにもあるようだ。20ほどの問題で、わずか4問の正解という失態を犯す。さっき展示を見たばかりなのに全然覚えてない。「あなたはまだ赤線地帯に行く準備ができてないと意識するように」と言われてしまった。

娼館のウィンドウに立つ体験型展示

ちょっと引いた安全地帯から物見遊山で展示を眺めていると、突如パンチを喰らう。思えばここは娼館そのものなのだ。いつのまにかウィンドウの裏側に立たされている。中に入っていると、意外に気がつかないものである。実はこれも展示のひとつで、「あなたの魅力でお客さんの気を引いてみて!」と書いてある。展示される側に回って考えてごらん、という趣旨の展示だ。