物見遊山の観光客もかなり多そうで、男女のカップル、女性同士や夫婦、なかには小さな子供を連れた家族さえもいる。彼らは赤線地帯に異文化体験をしにくる。毎年250万人以上が訪れ、アムステルダム全体の観光客の8分の1を占めるというから相当な観光資源だ(※1)。なんの気無しに予約したホテルがセックスツーリストだらけだったのは、必然でもあったようだ。
胸部や下腹部など局部のみを隠した娼婦は、照明で赤く照らされドア付きのガラス張りケースに文字通り展示されている。不特定多数の欲望を誘う異文化体験の素材となるのは、観光客の常識ではあり得ない非日常である。この光景は、彼らが生きる文化圏の法や倫理の下では成立しないもので、彼らの規範すなわち“普通”から逸脱しているから興味を引く。
※1 オランダ・アート・インスティチュートにおける記事。Dutch Art Institute, Roaming Academy.
ライトに欲望を充す性を“見る”観光
周辺には、性に関わる幅広い展示施設が多数存在する。その結果、様々なサービスの複合アトラクションとして街は総合的に演出されている。ストリップショー、ピープショー、リアルセックスショー、SM部屋、セックストイ展示販売、セクシートイレ、セックスミュージアム(娯楽的で日本の秘宝館に似ている)など、性を“観て消費する”オプションは豊富である。
五感を使う5Dポルノショー(2019年の開館時、アメリカのコメディ番組でネタにされていた)なんていう謎のライド系アトラクションもある(※2)。性を“見る”観光は、“買う”よりもライトでカジュアルに欲望を充(みた)す。
「赤線地帯の秘密 娼婦博物館(Red Light Secret: Museum of Prostitution)」というミュージアムが目に留まった。観光案内でも大きく扱われていて、他の施設と違ってややマジな印象も受け、ピンときて入ってみた。