外から見ると実際のウィンドウと変わりがないので、時々人だかりができてなんだなんだとこちらを見つめてくる。この居心地の悪さ(良さ?)は、観客を安全な場所から見ることを許さず、当事者の立場への想像力を喚起させられる、批評的なものでもある。

ただし、このように少し教訓めいた展示も、決して説教臭く終わらないよう工夫されている。展示はジョークのように軽妙で、観客に楽しんでもらうことが重視されている。例えば次のようなもの。

インサイダーからの成功した売春婦になる10のヒント
その①:姿勢 唇を曲げて腰を動かしてください。直立してあなたの曲線を強調してください。

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この調子で、「快活に」「目立たせる」「目でコミュニケーションする」「ほほえむ」「唇を舐める」「手を使う」「髪の毛」「手招きする」「のけぞりの仕草」などの指示が続く。ふたりの女性客が、冗談を言い合いながら、インストラクションに従ってキャッキャと楽しんでいた。

赤線地帯という「観光産業」の秘密

アムステルダムの娼婦博物館は、近代的な“権利”や“安全”を強調する語りのもとで、セックスワークの歴史と現状を解説する。労働者としての尊厳と安全を保証するというメッセージは、現代の人権意識に即したものだ。

しかし、この博物館は同時に、セックスツーリズムを文化的に正当化し、観光資源としての商品化を推進する役割も担っている。そこには、消費者の罪悪感を和らげ、性の商品化を「文化」や「異文化体験」の名の下に無害化する装置としての側面がある。

娼婦博物館とは、単なる個人の欲望に応えた商品ではない。政府が主導する観光都市化の中で、娯楽産業が観光客の欲望を巻き込みながら、社会のアイデンティティを構成するひとつの推進装置である。観光産業が欲望を編み直し、消費者の罪悪感を洗い流す“ミュージアム”のメカニズム――この施設では、こうした“赤線地帯の秘密”を知ることができるのだ。

小森 真樹(こもり・まさき)
武蔵大学人文学部教授
武蔵大学人文学部教授、立教大学アメリカ研究所所員。専門は、アメリカ文化研究およびミュージアム研究。美術・映画批評の執筆や、雑誌、展覧会、オルタナティブスペースの企画にも携わっている。著作に『楽しい政治 「つくられた歴史」と「つくる現場」から現代を知る』(講談社)、『歴史修正ミュージアム』(太田出版)がある。
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