こうした語りには、仕事の現実や厳しさ、そしてその中でも誇りを持って主体的に生きる姿勢を伝える展示の意図が明確だ。また、「男性のなかには、わたしがオランダ人だからという理由でわたしを好む人もいます。それは悲しいことです。アリス、オランダ出身」といった、人間を単なる属性として扱うレイシズムへの批判も含まれている。
公的娼婦制度を正しく伝える
先に述べたように、セックスワークはアムステルダム市政府が公認する公娼制度である。この展示では、セックスワーカーがどのような制度の下で働いているのかが解説されている。いかに公娼制度がきちんと管理されて整備されたものなのか、労働者の尊厳や安全が保証されているのか、この仕事のクリーンさが強調される。展示には、実際の売春関連のトラブル相談窓口へ遷移するものもあり、問題を抱えるセックスワーカーが支援されることも示される。
飾り窓地区にはホストと呼ばれる案内役がかなりの数立っており、交通ルールやマナーを案内する役割を担っている。酔っ払いや観光客による治安の悪化、住民への騒音公害に対応するための措置である。これらは近年の懸念事項で、2019年にはアムステルダム市がこの地区内でのガイドツアーを禁止し、さらに路上での大麻使用も制限するなどの施策が取られた(※3)。
次の施策として、需要を分散するため、離れた地域に新たな売春適法地区である「エロティックセンター」を設ける計画がある。しかし、こうした動きに対しては、セックスワーカー当事者の人権活動家の立場から、合法化された売春機会の増加をよしとする一方で、むしろ現在の飾り窓地区の魅力が減少するのではという懸念も上がっている(※4)。
※3 Jenny Gross, “Amsterdam Bans Marijuana Smoking on Streets of Red-Light District,” New York Times (Feb. 10, 2023).
※4 Claire Moses “Amsterdam Tries to Dim the Glare on Its Red-Light District,” New York Times (July 4, 2023)