スパイ。特殊工作員。フィクションの世界ではおなじみの存在だが、実態は不明である。アメリカのワシントンD.C.には有名な国際スパイ博物館があるが、われわれ日本人が行くにはハードルが高い。だが、実はもっと近所にそれっぽいものを学べる場所がある。それは台湾だ。国際空港がある桃園市に設けられた異域故事館(ロスト・アーミー・ストーリー・ハウス)である。すこし前の話になるが、今年8月にこちらにお邪魔させてもらった。
入館には事前予約が必要だが、規模はそこそこ大きい。館内で展示されているのは、1949年の国共内戦の終結後もミャンマー付近に残存した中華民国系の軍隊の歴史だ。この軍隊は通称、緬北孤軍。彼らの一部はその後も1970年代まで中国(中華人民共和国)への攻撃を続けており、訓練させた特殊部隊を潜入させていた。
なので、館内にはライターを模した小型カメラ、加熱すると文字が浮き出る手紙、歯磨き粉チューブに偽装した暗殺薬、消音拳銃といった、冷戦期の映画でしか見たことがないようなスパイ小道具の実物が展示されている。
75歳の元スパイが案内役
館長の王根深(75)に時間があるときはご本人に案内していただける。彼自身がもともと、光武部隊という緬北孤軍の部隊の出身者で、元情報部員だ。展示品の一部は過去の彼の愛用品である。
なお、館内にはスパイ道具以外に彼らの武器や軍服、命令書、さらに彼らが活動したミャンマー北部のアヘン吸引具なども展示されている。緬北孤軍は兵器はなんでも使っていたため、1950年代の雲南反共救国軍が用いていた日本陸軍の三八式歩兵銃や、1970年代に用いられた人民解放軍の56式自動歩槍(ソ連のAK-47のコピー品)なども紹介されていた。それぞれ、鹵獲兵器を運用していたのだ。
