大声で人を威嚇し、自説を押しつける。カリスマ性むき出しの初老の実業家、山王耕造を熱演する佐藤浩市にまず圧倒された。

 生き甲斐は競馬だけという耕造にバッタリ出会い、なぜか気に入られたのが実直な税理士、栗須栄治を演じる妻夫木聡だ。競馬のことは何も知らない。なのにいきなり耕造の直属のレーシングマネージャーを命じられる。ブッキー、大丈夫かな。個性むき出しの佐藤浩市に食われないか。

 敵の多い耕造だが、家でも孤立している。商才に長けた長男は自分の手がける部門を成功させ、会長の父に赤字つづきの競馬部門の廃止さえ突きつける。妻との関係も冷え切っている。そんな困った男がおこすトラブルや家庭内の不和まで頭を下げて事を収めようとする妻夫木くんを観て、さすが彼の主演作と納得。

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 耕造は「暮れの有馬記念を、日高の馬で勝つのが俺の夢だ」と何度もいう。実際に近年の日本競馬はある巨大な組織の一人勝ちだ。北海道、日高地区は中小の牧場が馬を生産してきたが苦境はつづく。

※写真はイメージ ©文藝春秋

 しかし日高の馬が有馬記念を制したことがある。マヤノトップガン。日高の川上悦夫牧場の生産馬だ。戦績も群を抜く。一九九五年に三歳秋の菊花賞を勝つと、暮れの有馬記念まで制した。四歳で宝塚記念、五歳で天皇賞(春)まで勝った。

 この川上悦夫牧場で二泊三日の牧夫体験をさせてもらったことがある。悦夫さんと常勤の気のいい若者。二人だけで仕事する素敵な家族牧場でね。

 そのころ、よくツルんで競馬場に出かけた競馬ライターのかなざわいっせいが悦夫さんと親しく、彼を介して短期牧夫になれた。

 かなざわ君は大学卒業の後に、美浦トレセン近くにある小さな育成牧場で現場仕事をした。そこで当時は畠山厩舎の調教助手だった小桧山(こびやま)悟氏と、悦夫さんに出会う。誰が言いだしたのかな。悦夫さんの生産馬でさ、ダービーを勝ちたいよな。コビさんが「俺もそのころには調教師になってるからさ。いっせい、オマエが観戦記を書けよ」。

 山王耕造の熱い我執の対極にあるような話だけど、心がほっこりするんだ。耕造とは異なる興味と関心で日高の中小牧場から毎年多くの仔馬を購入するのが風水のDr.コパさんだ。コパさんは私と同じ大の地方競馬好きでね。知り合って何年かしたとき「俺さ、全国の地方競馬場すべてに馬を持ちましたよ」と嬉しそうに語ってくれた。方角と色で金運を掴む風水師だから、シビアでね。日高の牧場主にも「ウチはウン百万までしか出せないから」といって交渉する。でも衰退する日高の生産牧場には、毎年必ず馬を買ってくれるコパさんみたいな馬主がいることは力強い。馬主もいろいろ。だから競馬は楽しい。

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