バラバラにされて捨てられた遺体や凶器が次々に
11月7日付毎日新聞(以下、毎日)夕刊は、Kが遺体運搬に使ったのは知人から借りた車で、運搬の前日、11月2日に金を払って予約したことが判明。「計画的犯行の疑いが濃い」とした。
同じ日付の読売にはKとAの乗った車の足取りが載っている。「Kは『夢中だったので、はっきりは覚えていない』と言いながら、差し出された地図に記憶をたどりながら一つ一つチェックした。
それによると、バラバラ遺体を詰め込んだ乗用車は、京葉高速道路で千葉市に入り、東金市―片貝海岸(九十九里)―長生郡―茂原市―山武郡土気町(現千葉市緑区)というコースを回り、再び千葉市内に来て東京に戻った」。その後、バラバラにされて捨てられた遺体や凶器が次々見つかった。新聞紙面で追うとーー。
▽「まず両足を発見」(11月7日付読売夕刊)7日、Kを同行して実況見分。千葉県茂原市の川の土手の草むらから両足の太もも部分を発見した
▽「両腕も見つかる」(11月8日付読売朝刊)7日午後、やはり茂原市内の杉林の中から左下肢と両腕を発見した
▽「市原で首発見」(11月8日付読売夕刊)8日、千葉県市原市の丘陵の雑木林で頭部を発見
▽「凶器の金ノコなど発見」(11月10日付朝日朝刊)9日、両足太ももを発見した茂原市の土手で、バラバラにするのに使った金ノコ(長さ48センチ)と替え刃1本を見つけた
▽「遺体全部見つかる」(11月10日付朝日夕刊)10日朝、東京都墨田区横網町の国鉄(現JR)総武線隅田川川底トンネル工事現場で、作業員が右足ひざから下の部分を発見。遺体の全部が見つかった
その後の調べで犯行の詳細が判明した。
1. Kは「Mを殺したのは11月2日夜」と自供した
2. 金に困り、融資の口実でMをマンションにおびき寄せ、殺害。小切手を奪って偽造した
3. 金ノコは殺害翌日の3日に買った
「銀座クラブマダムのバラバラ殺人」に報道は沸き立ち、1面コラムで取り上げた新聞も。11月7日付読売夕刊「よみうり寸評」は「とかく浮世は色と酒に欲である」の書き出し。「一流の夜の蝶は社用族の客の数倍する収入を持ち、文字通り主客転倒だが、実体は、花の命は短くて苦しきことのみ多かりきだろう。危ない橋を踏み外すと、不幸にも刺されたりバラバラにされたりする」と冷ややか。
11月8日付サンケイ新聞朝刊「サンケイ抄」は「現代の先端をゆく高級マンションと、華やかなネオンの裏側に潜む、醜い、ゆがんだ世界を暴いて見せた。近ごろ、これほどショッキングな、考えさせられる事件はない」とし、Kを「虚飾の社会が生んだ奇形児としかいいようがない」と断じた。
最後の遺体の一部が発見された直後の11月12日付朝刊各紙には、別のショッキングなニュースが載った。沖縄返還問題が大詰めを迎え、佐藤栄作首相(当時)の訪米に対して大学生らが「阻止」を叫ぶうち、政府の「弱腰」に抗議して首相官邸前で73歳の男性が焼身自殺を図った(その後死亡)。高度経済成長時代の中、時代は少しずつ動いていた。(つづく)





