遊廓に生きる女たちの粋
彫り物をした娼妓もいた。先述の林チサ子(仮名)はそれを実際に見た記憶があるという。
「隠れ入れ墨というのがあって、普段は見えないのに、風呂に入って温まると絵が現れるんですよ」
二本木に泉湯という銭湯があった。林はその前でよく遊んでいたが、窓が少しばかり開いていたため、友達同士で「次は私ばい」と互いにはねのけながら覗き見した。背中には観音様が両手を合わせている姿が鮮やかに浮き上がっていた。仏像は背中いっぱいに何体も描かれていたという。
娼妓は夜から客を取るので、夕方の早いうちに風呂に入り、体を清めてから髪を結ったり、化粧をしたりする。この時間帯は入浴客も少ないので、きれいな娼妓の姿は目立った。
「思わず声を上げました。仏さんの絵は珍しかったですよ。そら見事なものでした」
色はすべて青だった。娼妓が風呂から上がり、体を手拭いで拭き上げるころにはきれいに消えていた。まだ幼かった林は不思議に思うばかりだった。
なお地元の古老によれば、まだ幼かったころ、二本木にはいくつかの銭湯があったが、娼妓らが使う風呂は病気(性病)がうつるからという理由で行ってはならないと言われ、使う銭湯を分けられていたらしい。
もう一人、よく店に来ていた娼妓は肩から二の腕にかけて桃の柄の彫り物をしていた。蓮の花の柄もあったように記憶している。
しかし夏になり半袖を着ると袖からはみ出して見えてしまう。そのためか、白い割烹着で外出していた。髪結いをしていた林の親戚が、あるとき彼女に尋ねた。
「こぎゃん暑かて何で割烹着ば着とるとね。これば入れとるけん、半袖ば着られんとだろ」
林の親戚は叱った。
「あんたがそぎゃんとば入れるけん、服ば着られんごとなったたい。入れた墨は取れんとかい」
「火傷した跡のごたる傷が残るけん、取られんとですたい」
彫り物を入れるには大変な痛みを伴う。何時間も、歯を食いしばって耐えなければならない。だが、それも遊廓に生きる女たちの粋というものだったのだろう。
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