ナイフでアキレス腱を切断するというプロ的なやり口は、新聞紙上で、「大藪春彦の作品を愛読する者か?」といった推理記事も登場した。サディスティックな性癖がある若者像が浮かんでくる。
『歌舞伎町アンダーグランド』の取材で、当時、この事件関連で警察から事情聴取された男たちは複数いた。たまたま歌舞伎町周辺で遊んでいたところ、犯人の年齢に近いからと、手当たり次第に警察が尋問したうちの何人かだった。アリバイもあって放免されたが、そういえば、本誌の比嘉健二編集長もこんな体験をしていた。
「事件当日、自分も友だちと歌舞伎町のディスコで遊んでいました。事件のディスコとは違いますがね。翌週も懲りずに歌舞伎町で遊んでいたら歌舞伎町交番に連れていかれて指紋取られましたよ」
警察が大量のモンタージュ写真を作成している。犯人は特徴ある上下二色にわかれたポロシャツを着ていたので、被害者以外にこの犯人から声をかけられた少女が記憶しているはずだった。
『歌舞伎町アンダーグランド』で、本事件について何人か、尋ねている。
作家・岩井志麻子もその一人だ。志麻子姐さんは現実の事件について、毎回、深掘りして鋭い発言をする。
「わたしは事件マニアなので、歌舞伎町というと1982年のディスコ殺人事件がすごく気になってて、小にも書いたりしたんです。実際の事件は、家出中の中学生が新宿のディスコで遊んだ後、ゲームセンターにいたら男に声をかけられてクルマに乗って千葉の山奥まで連れられて、そこでアキレス腱を切られて惨殺される。もう一人は生き残るんですよね」
そして生き残った彼女のその後の人生について作家らしい想像力を働かせている。何食わぬ顔をして生きているのか、あるいは女子刑務所に入って、身を持ち崩して早死にしたのか。
氏素性が分からない匿名性の高い街
事件を総合的に判断すると、見えてくる犯人像がある。
犯人は千葉市あるいはその近辺の在住者。親と同居している。年齢は18歳から21~22歳。大学生の可能性あり。歌舞伎町の遊び仲間からも犯人像らしい男の情報は上がっていたかも知れないが、犯人に直接結びつくものではなかった。この街では氏素性をとやかく聞かない、匿名性の雰囲気があった。
私は真犯人は千葉市付近の大学生だと今でも思っている。
殺人事件の時効は当時15年、この残虐な事件は1997年6月6日午前0時に時効をむかえてしまった。
新聞テレビ、雑誌に犯人のモンタージュ写真まで載っていたのだから、犯人はもちろん、同居しているであろう親、兄弟、あるいは顔見知りの学友、職場仲間、恋人、遊び友だちのなかに、「もしかしたらあいつが」と疑う人物がいただろう。
逃げおおせた犯人は今、どうしているのだろう。生きていれば還暦を超え、孫がいる世代である。孫娘が中学3年生になったとき、彼は少女を刺し殺した感触を、ふと思いだしたりしないだろうか。
