大人の視聴者に刺さる「もうひとりの主人公」
そんないのりの執念と情熱が、司というもうひとりの遅れてやってきた人間と出会って激変する。司がフィギュアを始めたのは、いのりより遅い中学生のとき。オリンピックで金メダルを取った夜鷹純という、羽生のような強さと美しさを持った選手のスケートに憧れ飛び込んだものの、見込みが薄いからと誰にもコーチをしてもらえなかった。
そこから努力した結果、シングルの選手にはなれなかったもののアイスダンスのパートナーとして全日本選手権に出場するまでになったのだから才能はあったのだろう。
けれどもそこまで。引退してアイスショーで踊るプロになろうとしたものの、どこにも採用してもらえず路頭に迷いかけていた。不景気の中で、不安な気分を抱きながら働いている大人にとっては、いのりよりも興味を惹かれるキャラクターだ。
その司が、かつてのパートナーがヘッドコーチを務めるクラブにコーチとして招かれ、訪れたリンクでいのりと運命的な出会いを果たし、共に頂点を目指して走り始める展開が素晴らしい。
いのりが壁にぶつかって悩むとき、司もいっしょになって悩み考え突破口を見つけようとする。いのりのためになるならと、あちこち飛び回って他のコーチに教えを請いに行く。そして、いのりが壁を乗り越える度に喜びながら、自分自身もしっかりと成長していく司は、『メダリスト』における立派な主人公。「もう遅い」と諦めてしまっている大人たちを奮い立たせるリーダーだ。
司のもうひとりの主人公ぶりは、鴗鳥理凰という少年のフィギュアスケーターに前を向かせようと、自分で滑ってみせる場面で存分に発揮される。司はジャンプこそ跳べないものの夜鷹に負けない美しいスケートを見せて、反抗気味だった理鳳を奮起させる。
いのりが自慢げに「見なよ…オレの司を…」と理鳳に言いたくなる気持ちも分かるだろう。それくらい存在感があるキャラなのだ。『エースをねらえ!』や『あしたのジョー』の二人三脚とはまた違った、2人ともそれぞれに遅いスタート地点からグングンと成長していくところに、『メダリスト』が世代も性別も超えて支持を集める理由があるのだ。
