ワインレッドのイブニングドレス姿で逮捕されたウルフ
ウルフと主催者たちの意見が一致しなかったのは、それだけではない。良くも悪くも、主催者たちはこの運動には政策目標がないことを明確にしていた。いくつかの政治的要求に議会で合意が得られれば、自分たちも抗議をやめて家に帰れるという、そういう話ではないのだと。ところがウルフはそうではないと主張した。この運動には特定の要求があり、それが何かを彼女は突きとめた――本当とは思えないが――というのだ。
『ガーディアン』紙に寄せた記事で、彼女はオキュパイ運動のアクティビストを名乗る人たちに、「オンラインであなたは何を求めているのか?という質問」をした結果、「オキュパイ・ウォールストリート運動が実際に何を要求していたのかが明らかになった」と書いている。
次にウルフは、ラディカルな参加型の民主主義を志向する運動の主旨は無視して、この場当たり的な調査の結果を一連の要求リストに仕立て上げ、それを自分が招待されていた『ハフィントン・ポスト』主催の準正装イベントの会場で、同じく招待されていたニューヨーク州知事アンドリュー・クオモにまったくの独断で手渡そうとしたのである。
さらに状況は奇々怪々の様相を深める。クオモと接触できなかったウルフはイベント会場を出ると、建物の外にいたオキュパイ運動の参加者に自分から話しかけ、彼らの要求していることが何なのかを自分なりに解説したうえで、その要求のしかたは間違っている、なぜなら「メガホンを使う権利は合衆国憲法修正第1条に保証されている」からだと主張。その後彼女は、ワインレッドのイブニングドレス姿で警察に逮捕された。この騒ぎの一部始終はズラリと並んだカメラに収められた。女子トイレの女性たちが「ナオミ・クライン」には私たちの要求がわかっていないと話していたのは、このことだったのだ。
ウルフのバカげた行動が次々に明らかになっても、私はたいして注意を払わなかった。波乱に満ちたあの年の秋、オキュパイ運動の周辺では突飛な出来事が掃いて捨てるほど起きており、ウルフの行動もそのひとつにすぎなかった。あるときにはイギリスのロックバンド、レディオヘッドが無料コンサートを開くという噂が広がり、抗議参加者たちは騒然となった――が結局、これは単なる悪ふざけで、バンドはイギリスにいることが判明する。
その翌日には、ラッパーのカニエ・ウェストと音楽プロデューサーのラッセル・シモンズが取り巻きを従えて公園に立ち寄り、テントに寝泊まりする参加者たちにプレゼントまで持ってきた。次には俳優のアレック・ボールドウィンもやってきた。まるでサーカスのような雰囲気のなか、自分の年齢の半分ぐらいの若者たちにあれこれ指図しても耳を傾けてもらえない中堅の物書きが逮捕されたことなど、ささいな出来事だった。
