10年間、空想だらけの憶測を広めてきた“私のドッペルゲンガー”
オキュパイ運動からの10年間、ウルフは考えられないほど多くのバラバラの事実や空想を点と点を結ぶように関連づけては、裏づけのない憶測を広めてきた。
国家安全保障局による大規模な個人情報収集を告発した元局員のエドワード・スノーデンについては、「本人が称するような人物ではない」と、彼が現役のスパイであるかのようにほのめかし、2014年のエボラ出血熱流行時にアメリカが野戦病院建設のために西アフリカに軍を派遣したことについては、感染拡大を食い止めるためではなく、エボラ出血熱をアメリカ国内にもち込んで「大規模ロックダウン(都市封鎖)」を正当化するための策略だと主張。
過激派組織ISIS(イラク・シリアのイスラム国)がアメリカ人とイギリス人の人質の首を切って殺害したことについては、おそらく本当に殺害したのではなく、役者を使った米政府によるやらせの秘密作戦だろうとした。
国際通貨基金(IMF)前専務理事のドミニク・ストロス=カーンが、ニューヨークのホテルの客室で女性従業員に性的暴行を加えたとして逮捕された(ストロス=カーンは不起訴となり、民事訴訟も和解した)ことについては、この事件そのものが、2012年の仏大統領選に出馬すれば「ニコラ・サルコジの有力な対抗馬」となるとみられていたストラス=カーンをひきずり下ろすために「諜報機関」が仕組んだ策略ではないかとの見方を示した。
また2014年に行われたスコットランド独立の是非を問う住民投票で、反対派が10%以上の差で勝利したことについては、自分が集めた証言をもとに、この結果は不正であると主張。グリーンニューディールについては、草の根の気候正義運動の要求などではなく、エリート層が画策した新手の「ファシズム」の隠れみのだと言い立てた。
富が極端に集中し、権力者の責任逃れは際限を知らないこの時代、公式な話(オフィシャル・ストーリー)の真相を追求することはまったく理にかなっているし、賢明でもある。現実に存在する陰謀を暴くことは調査ジャーナリズムにとって欠かすことのできない使命であり、このことについてはのちに詳しく取り上げる。
だが、わがドッペルゲンガーは、実際に行った調査に基づいてスノーデンやISISやエボラについての低俗な説を拡散したのではない。あるいは、空に奇妙な形をした雲が出現したのは「地球全体にアルミニウムを」噴霧するという米航空宇宙局(NASA)による秘密工作の一部で、その目的は認知症の流行を引き起こすためかもしれないと言い出したときも同じである。
そしてGスモールセルのネットワークについて、真に驚くべき見解をTwitterに投稿したときも。たとえばこんな投稿だ。「まだGのない〔北アイルランドの〕ベルファストに行ったとき、大地も空も空気も、人間の振る舞いまで含めて、まるで1970年代のように感じられ、すばらしかった。静かで落ち着いていて、平和でのんびりとし、自然な感じがした」。
この投稿にはたちまち国境を越えた嘲りが、Twitter特有の激しさを伴って山のように寄せられた。そのほとんどが、次の2点を強調していた。⑴ベルファストでは彼女が訪問する以前にGがすでに導入されていた、⑵1970年代の北アイルランドは血で血を洗う激しい紛争の真っ只中にあり、武力衝突によって何千人もの死者が出た。
これらの発言がすべて、かつてオックスフォード大学でローズ奨学金を得た学者として『美の陰謀』(1991)を書いた、その同じ著者によって出されたとはにわかには信じがたい。
「少女が学ぶのは他者への欲望ではなく、欲望を抱かれたいという欲望なのだ」と彼女はこの本のなかで書く。「少女たちは自分の性を少年の側から見ることを学ぶ。そのために自分が本来何を望んでいるかを探り、それについて読んだり書いたりし、それを求め、手に入れるために費やすべき空間が埋められてしまう。性は美の人質となり、その身代金の額は少女の心に早くから深く刻みつけられる。しかもそれには文学や詩、絵画、映画など、広告制作者やポルノ業者たちが使うものよりもっと美しいものが使われるのだ」
この本には重要な統計的な間違いが見受けられる(その後の彼女の言動を予見させる)ものの、同時に根気強い資料調査の跡もみられる。今日、ウルフがオンラインで書いているものはあまりに熱に浮かされた空想だらけのものであり、彼女の過去の著作からこの人物がかつては明らかに言葉を愛し、少女や女性の内面生活について深く思考してその解放のビジョンをもっていたことを読み、思い起こすと、ただただ驚くばかりだ。
Copyright: DOPPELGANGER
© 2023 by Naomi Klein