「派閥争いのようなことをしているのを見て、『何やっているの?』と正直思っていました。教祖がいたときから一枚岩だったわけじゃないですけど、一応、教義があって、オウムというものがあって、みんな同じものを信仰して、ひとつの集団だったわけじゃないですか。みんな来世でいいところに行きたいから教団にいたはずなのに、なぜ目指すところが違うんだろう。仲間割れしているのを見て、教団が本当にボロボロと崩れてきたんだと思いましたね」
教団の財政状況も次第に悪化していった。これまで暮らしてきたアパートから退去を迫られ、母親の春代さんと加奈さんは、自らの収入だけで生活するよう求められたのだ。
社会人になって数年がたつ頃には、教団との関わりはまったくなくなり、生活は次第に困窮していった。
母を困らせようと自傷
春代さんと最も衝突したのは、この頃のことだ。
相変わらず加奈さんは職を転々とし、パチンコで遊ぶなど、自堕落な生活を送っていた。仕事も生活もうまくいかないのは、一体なぜなのか─。その原因を探したときに、オウムにいたことを理由にするのは簡単だった。怒りの矛先は当然、オウムに連れて行った春代さんに向かった。激しい口論だけではなく、鍋を投げつけることもあった。
「仕事がうまくいかない理由は、オウムにいたせいだ」
「普通の生活が送りたかった」
喧嘩だけではなく、自傷行為に及ぶことすらあった。
「親への当てつけじゃないですかね。別に死にたいと思っているわけじゃなくて、これをやったら親が困るんじゃないかと思って、腕を切っていました。なんか、苦しいし、ただひたすらに普通でいたかった。オウムにいたせいで普通じゃなかったということを、親にわかってほしかったのだと思います」
生まれたときから引っ越しを繰り返し、特殊な環境で育ったがゆえに、普通でいられなかった。それは、誰のせいなのか。今さら仕方のないことだとわかっていながら、怒りや不満を母親にぶつけるしかなかった。
「教団とか組織とか関係なく、親と子として2人で生きていかなきゃいけないことが(ぶつかった背景に)あったのかもしれないですね。教団への不満、学校への不満、会社への不満、それまで文句を言う先が分散していたのが、親に凝縮されたというのはあると思います」